イタリアの詩人。ナポリの弁護士の家に生まれる。早くから詩人を志して、法律の勉強を強制する父親と対立、ついには勘当を受け、文学を愛好する貴族たちの援助に頼りながら、文学修業と二度の投獄にみられる放蕩(ほうとう)無頼の青春を故郷に送った。この間、晩年の大詩人タッソを知り、その対話編の出版に携わる。1600年に故郷を逃げ出してローマへ赴き、02年から枢機卿(すうききょう)に仕えた。なおこの年、処女詩集をベネチアで刊行している。06年、主人に従ってラベンナへ移ったが、08年にはトリノのサボイア公に取り入って宮廷へ迎え入れられた。激越な論争詩を闘わした同僚詩人から未遂に終わったものの拳銃(けんじゅう)で撃たれる事件が起きたりするなかで、騎士の称号を受けるなど急速に地位と名声を高めていったが、他方、主君を誹謗(ひぼう)したかどで1年余りの獄中生活を強いられもした。15年フランスの皇太后に招かれてパリに渡り、やがて国王ルイ13世の庇護(ひご)も得て、ここに宮廷詩人の光栄をほしいままにした。作品の多くはこの時期に完成し、発表された。23年、畢生(ひっせい)の大作『アドニス』をルイ13世に献じたのを最後にイタリアへ帰り、2年後の25年、まさに栄光の絶頂において故郷の地に没した。
作品は韻文を中心に膨大な量に上るが、おもなものは、処女作の『詩集』(1602)を増補改訂した叙情詩集『竪琴(たてごと)』(1608、増補決定版1614)と牧歌集『風笛(ふうてき)』(1620)、そして代表作の長編叙事詩『アドニス』(1623)20歌である。これは、ギリシア神話の女神アフロディテと美少年アドニスの恋の物語を基本の筋に用いながら、そこに古典から借りたさまざまな挿話を混入させた4万行を超える長大な作品で、絶えず読者を驚かさなければいけないという独自の詩学に基づいて案出された、奇抜な隠喩(いんゆ)、誇張した表現、意表をつく展開が重要な特色をなしている。マリーノを時代の寵児(ちょうじ)たらしめたものも、実は、『アドニス』において極められたマリニズモとよばれるこの新しい詩法であり、それは17世紀イタリアのバロック文学を決定的に方向づけることになった。
[林 和宏]
イタリアの詩人。ナポリに生まれる。父の命により法律を学ぶがまもなく放棄し,文学修業と放蕩無頼の青春を故郷で送り,2度獄に下る。なおこの時期に晩年のタッソを知った。1600年故郷を逃げ出し,ローマで枢機卿の客となる。主人に従ってラベンナ,次いで08年トリノへと移り,同地でサボイア公の宮廷に迎え入れられ,厚遇を受ける。詩人の名声はいよいよ高まったが,その一方で同僚の詩人との論争詩の応酬が刃傷沙汰に及ぶ事件もあった。また主君の反感を買って1年余りの獄中生活を余儀なくされもした。15年フランスの皇太后マリー・ド・メディシスに招かれてパリに渡り,やがて国王の庇護も得て,宮廷詩人の光栄をほしいままにした。書きためられた作品の多くはこの時期にまとめられ出版された。23年健康を害したこともあって帰国すると,いまや不世出の大詩人として迎えられたが,25年まさに栄光の絶頂において故郷の地に没した。作品には《竪琴》(1614),《風笛》(1620)をはじめとする多数の詩集と,ギリシア神話から題材をとった長編叙事詩《アドニス》20歌(1623)があるが,総じて,読者の想像力を刺激するべく駆使された奇抜な隠喩と凝った文体に特徴があり,感情よりも感覚が重視された。そしてこれは16世紀の文学規範であったペトラルカ模倣に代わる新しい様式の誕生を告げるものであり,マリニズモMarinismoの名で17世紀イタリア文学の主流をなした。
執筆者:林 和宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…彼はベルニーニやボロミーニの手になるローマのバロック建築と装飾の,曲線の支配や全体の動的統一やファサードの強調といった特徴を文学の次元に移行させつつ,魔女キルケや変幻自在の海神プロテウスが活躍し,魔法の城やアルゴ船の一行や奇怪な動物や聖イグナティオスらが次々に登場する宮廷バレエとか,主人公が狂気を装ったり変装したり,瓜二つとか取違えのために混乱に陥ったりするロトルーやスキュデリーやコルネイユの演劇,旋風,雲,水の泡,震える水面,炎等の束の間の浮動するものを歌ったド・ブリーブ,ラ・メナルディエール,ド・ビオの詩をバロックの典型とした。 イタリア文学についてはジェットGiovanni Gettoは,哲学者で宗教裁判で焚刑にあったブルーノ,《太陽の都》で有名なカンパネラ,マリーノらの名を挙げる。《英雄的狂気》の中でブルーノは身を滅ぼしても真理と美の女神アルテミスを追うアクタイオンのことを〈心誘う灯火に向かって舞い飛ぶ胡蝶は炎にやかれて亡ぶ身の末を知らず〉と歌う。…
…しかし,パリ時代の作品は伝わらない。パリ滞在中のイタリアの詩人G.マリーノの称賛をうけ,24年その援助で年来のローマ行きが実現する。マリーノはまもなく没するが,マリーノの知人であったバルベリーニ枢機卿の後見もあり,しだいにこの地で名声を得るようになる。…
…その思想を異端に問われて焚刑にされたG.ブルーノやユートピアを描くことによって,かえって悲惨な現実を逆照射することになったT.カンパネラが活動したのも,この16世紀末から17世紀にかけての時代だった。経済は停滞し,社会の閉塞状況が強まるなかで,前代の文学を激しく批判し,新しい詩の言語と様式の確立を主張して,神話や多彩な暗喩を駆使した作品を発表したのが,バロック期を代表する詩人のG.マリーノであった。 一方,17世紀後半に,デカルトの合理主義思想とガリレイの科学的探究の精神が結びついた形でナポリにもたらされると,新たに形成されつつあった市民層は,教会と世俗権力との結びつきを嫌って,これを受け入れた。…
※「マリーノ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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