ムクロジ(読み)むくろじ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ
むくろじ / 無患子
[学] Sapindus mukorossi Gaertn.

ムクロジ科(APG分類:ムクロジ科)の落葉高木。高さ約10メートルに達する。葉は互生し、大形の奇数羽状複葉。小葉は7~9枚で広披針(こうひしん)形、全縁で先はとがり、基部は左右非相称。夏、枝先に大形の円錐(えんすい)花序をつくり、緑白色を帯びた小花を多数開く。雌・雄花ともに同一花序につき、萼片(がくへん)、花弁各4、5枚。雄花は雄しべが8~10本、雌花雌しべが1本ある。果実は球形で径約2センチメートル、熟すと黄褐色になり、中に球形で堅い、黒色種子が1個ある。林中に生え、中部地方以西の本州から沖縄、および中国、インド、インドシナ半島に分布する。名は、モクゲンジ(ムクロジ科の別植物)の中国名である木欒子を誤ってムクロジにあてたため、木欒子の日本語読みモクロシからムクロジになったという。庭園、神社に広く植栽される。

[古澤潔夫 2020年9月17日]

文化史

中国では紀元前から知られ、無患子の古名の桓(かん)は『山海経(せんがいきょう)』にみえ、郭璞(かくはく)は、果実を酒に漬けて飲むと、邪気を防ぐと注を施した。『嘉祐本草(かゆうほんぞう)』は、果皮は垢(あか)を洗い、面(めんかん)(そばかす)をとると述べている。無患子は、昔、神巫(しんぷ)がその木でつくった棒で鬼を殺したので、鬼を追い払い、患いを無(なく)すと伝えられたからという(『植物名実図考(めいじつずこう)長編』)。子は種子の意味である。果皮を漢方では延命皮(えんめいひ)とよぶ。サポニンを含み、泡立つので、それを洗剤に使った。『本草綱目』(1596)では、真珠の汚れを落とすのに用いるとの記述がある。日本でも明治時代まで、せっけんのように使用された。泡は消えにくいので、液状の消火器に使われている。種子は堅く、中国では唐代から数珠(じゅず)に用いられていた。日本では正月の羽根突きの球(たま)にされた(『和漢三才図会』)。『替花伝秘書(かわりはなでんひしょ)』(1661)では、戦(いくさ)から帰陣のおりにいける花に、楠(くす)と添え物に「むくろ木」をあげている。

[湯浅浩史 2020年9月17日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムクロジ」の意味・わかりやすい解説

ムクロジ(無患子)
ムクロジ
Sapindus mukorossi

ムクロジ科の落葉高木。日本の本州中部以南および東アジア,インドに分布する。暖地の山林に生え,庭木として植えられることもある。幹は高さ 18m,直径 1mに達する。葉は 30~70cmの大きい羽状複葉で互生し,小葉は8~16個あって,全縁で卵形,左右の羽片はややずれて軸につく。6月頃,枝先に大型の円錐花序をつけ,淡緑色の5弁の小花を開く。花軸や枝に細かい毛がある。果実は径 2cmほどの球形で黄褐色に熟し,楕円形の硬い黒色の種子を1個生じる。種子は羽根つきに使うつく羽根の球に用いられ,果皮はサポニンを含み石鹸の代用,種子はまた食用にもされる。

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