権力者が自己の社会的権威を誇示するために公的な場所で使用する座,または座具。玉座は通常踏段を備えた高台に設置され,権力者はつねに高い位置を保持し,被支配者たちを見下ろすところに着座する必要があった。したがって玉座は権力者の威厳ある姿勢を保持する座具であるとともに,ステータス・シンボルとしての機能を果たしている。
古代エジプトではライオンの脚をつけた黄金の玉座が作られ,その影響を受けて,古代ギリシアでは高い背もたれと足台を備えた肘掛椅子(トロノスthronos)が国王の玉座となった。共和政時代には,この玉座は形式が単純化し,高貴な客人やソフィストまたは家主が儀礼用にも使用した。ローマ人はこの形式を継承し,木材のほかに大理石やブロンズを素材として豪華な彫刻の飾りをつけたソリウムsoliumと呼ぶ玉座を作った。また帝政期にはセラ・インペラトリアsella imperatoriaと呼ぶX字形の折りたたみ式の椅子が皇帝の執務用の椅子として登場した。中世期の西欧の国々にも玉座は伝承されたが,そのなかでロンドンのウェストミンスター・アベーのコロネーション・チェア(戴冠式用玉座)は1300年の作で,全体がゴシック建築のファサードをかたどっており,エドワード2世以来歴代の国王の即位式に使われてきた。また,ベルサイユ宮殿の〈王国の間〉で使用されたルイ14世の謁見用玉座や,19世紀初期ナポレオン1世がフォンテンブロー宮殿〈玉座の間〉に設置したアンピール様式の黄金の玉座などは,ともに権力者の権威をより強く誇示する意識がみられる。一方,ローマ教皇や大司教たちが着座する玉座または司教座にも豪華な椅子が保存されている。イギリスのカンタベリー大聖堂の内陣に設置された大理石製の聖オーガスティン・チェアは13世紀初期の作で,ラテン十字形の背もたれを備えている。ローマのサン・ピエトロ大聖堂には,ローマ教皇がバチカン公会議の際に着座する豪華な黄金の玉座が所蔵されている。
椅子式生活の伝統がない日本では,玉座は一つには天皇が朝儀の際に着座する御座所を指す場合と,御所の紫宸殿や清涼殿の殿上の間で,群臣の拝を受ける際に着座する御倚子(ごいし)のことを指す場合とがある。後者は紫檀または黒檀で作られ,座面の両側と後部に低い勾欄(こうらん)を備え,鳥居形の背をつけた形式で,錦の縁飾をつけた座布団をのせている。正倉院には赤漆槻木胡床(せきしつつきのきのこしよう)と呼ぶ御倚子が所蔵されているが,これは西欧の椅子が日本に移入される以前の唯一の玉座のタイプとみることができる。
執筆者:鍵和田 務
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…天井中央に大きな円鏡をはめ,床に差し筵(むしろ)を敷く。その上に繧繝端(うんげんべり)の大畳2帖,中敷1枚,唐軟障錦端(からのぜじようきべり),東京錦(とうぎようき)の茵(しとね)と重ねて玉座とし,座の左右に剣璽の台を置く。基壇につけた勾欄を朱塗とし,全体を黒塗とする。…
※「玉座」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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