ティグリス川(英語表記)Tigris

翻訳|Tigris

改訂新版 世界大百科事典 「ティグリス川」の意味・わかりやすい解説

ティグリス[川]
Tigris

トルコ西部のクルディスターン地方の山岳地帯に発してイラクにはいり,クルナユーフラテス川に合流しシャット・アルアラブ川となるまでの全長1900kmの川。チグリス川ともいう。アラビア語ではディジュラDijla。流域面積は,南をほぼ平行して流れるユーフラテス川のそれとをあわせて76万5000km2とされる。イラク北部までは降雨農業を営む山村地域を流れるが,サーマッラー付近からはメソポタミア沖積平野にはいり,古代からの灌漑農業を支えてきた。そのための人工水路のあとが網の目のように残っており,一部は今日でも利用されている。しかし,水源地の雪どけ水がやってくる4~5月が増水期にあたるため,稲作以外の農業にとっては必ずしも最適ではなく,かえって洪水や塩害の原因になりやすい。20世紀にはいってからでも流路は頻繁にかわり,下流には広大な沼沢地をつくって特異な水郷村が存在している。そのため,貯水や洪水制御のためのダムや堰堤が必要となる。そこで20世紀初頭からクートやディヤーラーに堰堤がつくられたのをはじめとして,1950年代以後は莫大な石油収入を投じた壮大な治水・灌漑計画がすすめられている。
メソポタミア
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ティグリス川」の意味・わかりやすい解説

ティグリス川
てぃぐりすがわ
Tigris

西南アジアの大河。トルコに発してのちイラクに入り、ユーフラテス川と合し、シャッタル・アラブ川となってペルシア湾に流出する。全長1850キロメートル。アラビア語ではディジュラDijlah川、トルコ語ではディジュレDicle川とよばれる。

 水源はトルコの小アジア半島東部、アンティ・トーラス山脈中のハザル湖にあり、ボタン川など多くの支流をあわせながらほぼ東南東へ約500キロメートル流れ、約30キロメートルにわたってトルコ・シリア国境をたどりイラクに入る。イラクでは、東のクルディスターン山脈、ザーグロス山脈から流下する大ザーブ川、小ザーブ川、ディヤーラ川などを集めながら、メソポタミア平原をユーフラテス川と並走して南東流する。北部のモスル付近までは山間に縦谷、横谷をなし、モスル―サマッラー間はジャジーラ丘陵を刻むが、サマッラーから下流では沖積平野を蛇行、曲流し、バグダード付近でユーフラテス川にもっとも接近する。アルクートで旧河道のシャッタル・ガラフ川を分かってのち、主流は東寄りの流路をとって沼沢地帯を貫きながら南下し、ユーフラテス川との合流点アルクルナーに至る。

 降水量の豊かなクルディスターン山脈、ザーグロス山脈からの支流を多く抱えるため、水量はユーフラテス川に比べてその1.6倍と多い。水位は融雪期の4月に最高を示し、逆に10月には最低となるが、その比は九対一にも達する。灌漑(かんがい)用水として利用され、米、大麦、ナツメヤシなどを養うほか、第二次世界大戦後、治水・利水の目的で計画されたサマッラー堰堤(えんてい)や支流の多目的ダムの出現によって、新たに発電用水としても利用されるようになった。かつて盛んであった河川交通は衰退している。古くはユーフラテス川とともにメソポタミア文明をはぐくんだ。

[末尾至行]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ティグリス川」の解説

ティグリス川(ティグリスがわ)
Tigris

アルメニアに発し,バグダードを貫流,ディアラ,ザブの支流をあわせ,下流はユーフラテス川に合流しペルシア湾に注ぐ。流域にはニネヴェクテシフォンセレウキアの遺跡がある。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ティグリス川」の解説

ティグリス川
ティグリスがわ
Tigris

西南アジア,トルコ東部のトールス山脈に源を発し,イラクを南東流してユーフラテス川と合流し,ペルシア湾に注ぐ川
アラビア語で「ダジラ」という。流域にはバグダードがある。ティグリス・ユーフラテス両川の流域はメソポタミアと呼ばれ,四大文明の1つを生んだ。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のティグリス川の言及

【イラク】より

…メソポタミア文明の故地として知られる。
【自然,住民】
 トルコ東部に発するティグリス川ユーフラテス川とによってつくられる沖積平野が国土の4分の1を占めるが,北部のティグリス川とその支流小ザーブZāb al‐ṣaghīr川の上流,および北東部のザグロス山脈に連なるイランとの国境地帯は,山岳地帯である。また西部はシリアとサウジアラビアにまたがる砂漠で,国土の約半分を占める。…

【治水】より

…78年にもガンガー平原一帯が大洪水に見舞われ,大きな被害があった。【応地 利明】
【西アジア,エジプト】
 治水事業は,ティグリス川ユーフラテス川ナイル川に集中して行われてきた。メソポタミアに中央集権的な国家を建設したバビロン第1王朝のハンムラピ王は,ユーフラテス川とティグリス川を結ぶ大運河を幾本も開削し,それらを無数の小運河で結ぶことによって,毎年5月に起こる洪水を統御するとともに,両河の水を灌漑水として有効に利用する体系をつくりあげた。…

※「ティグリス川」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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