モハンマディ(英語表記)Mohammadi, Narges

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モハンマディ」の意味・わかりやすい解説

モハンマディ
Mohammadi, Narges

[生]1972.4.21. ザンジャーン
ナルゲス・モハンマディ。イランジャーナリスト人権活動家。政治犯擁護する活動を行なう,人権擁護センターの副代表として働き,2023年にノーベル平和賞(→ノーベル賞)を受賞した。授賞理由は「イランにおける女性への抑圧と闘い,またすべての人の人権や自由の促進のために闘ったこと」。平和賞受賞は,イラン人としては 2人目で,人権擁護センターを設立したシリン・エバディが 2003年に受賞している。ノーベル賞授賞式には服役中の本人に代わって,2人の実子が出席し,彼女のメッセージを読みあげた。
テヘラン北西のザンジャーンのアゼルバイジャン系の家に生まれ,活動家の母方おじといとこがイラン革命後に処刑される。1990年代初頭,カズビーンのイマーム・ホメイニ国際大学で物理学を学ぶかたわら,学生のための政治グループを立ち上げるなど市民の社会参画に深く関与するようになった。大学で知り合ったタギ・ラフマニと 1999年に結婚し,2006年に男女の双子を授かった。その間,イランでは改革派のモハマド・ハタミ大統領職にあり,ややリベラルな空気に包まれていたが,相変わらず治安機関は最高指導者(ラフバル)のアリ・ハーメネイ師と密接に結びついていたため,活動家や反対意見に対する抑圧は続き,夫のラフマニも 2度投獄された。2003年,モハンマディはエバディの人権擁護センターに参加。2005年に強硬派のマハムード・アフマディネジャドが大統領に就任すると,改革派や中道勢力への弾圧はいっそう強まり,2008年には人権擁護センターの活動が禁止に追い込まれた。2009年大統領選挙の前後数ヵ月間にわたる取り締まり強化のなか,モハンマディは同センターへの参加を理由に逮捕され,パスポートを没収された。エバディは直後に亡命,夫と子供たちは 2011年にフランスに出国した。モハンマディはその後も,死刑制度や女性の人権抑圧,刑務所での政治犯,特に女性への拷問,性的暴行などに反対する運動にかかわり,2023年までに計 13回逮捕され,5度の有罪判決を受けて計 31年に及ぶ禁錮刑などを言い渡された。2022年に首都テヘランで女性の頭部を覆うスカーフヒジャブの「不適切な着用」を理由に 22歳の女性マフサ・アミニが道徳警察に連行され,拘束下で急死した事件の 1年後の命日である 2023年9月16日には,『ニューヨーク・タイムズ』に論説を寄稿し,「監禁されればされるほど,われわれは強くなる」と訴えた。著者に『白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録』White Torture: Interviews with Iranian Women Prisoners(2022)。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「モハンマディ」の意味・わかりやすい解説

モハンマディ
もはんまでぃ
Narges Mohammadi
(1972― )

イランの女性人権活動家、ジャーナリスト。女性差別・抑圧策をとるイランにおいて長年、女性の権利・自由・尊厳の擁護や死刑廃止などを求めて活動している。繰り返し逮捕・投獄されながら、女性への弾圧と闘い、人権・自由の獲得活動を推進した功績で、2023年のノーベル平和賞を単独受賞した。受賞時も、テヘラン刑務所に収監中であった。

 1972年、イラン北西部のザンジャン州生まれ。カズビーン国際大学(現、イマーム・ホメイニ国際大学)物理学科を卒業。学生時代から女性・人権問題に取り組み、学生の権利や社会正義に関する記事を書いて二度逮捕された。卒業後、エンジニア関連職についたが、体制改革派の雑誌などに記事を書き、ジャーナリストとして活動。弁護士シリン・エバディ(2003年ノーベル平和賞受賞)が代表を務めるイランの人権団体である人権擁護センターの副代表を務めながら、女性差別の撤廃、人権擁護、専制政治からの自由・解放などに取り組んでいる。2022年、公共の場での女性のヘジャブ(スカーフ)着用問題を契機にイランで大規模デモ(拘束2万人以上、死者500人以上)が発生した際には、獄中からSNSなどでデモへの連帯を訴えた。反体制活動を理由に1998年以降、イラン当局に十三度逮捕され、五度有罪となり、禁固刑期は累計31年に及ぶ。夫のタギ・ラフマニTaghi Rahmani(1959― )も人権活動家で、2人の子どもとともにフランスに亡命中である。投獄・拘禁中の人物がノーベル平和賞を受賞するのはベラルーシの人権活動家ビャリャツキに続き2年連続で、過去にはミャンマーのアウンサンスーチー、中国の劉暁波(りゅうぎょうは)らがいる。

[矢野 武 2024年2月16日]

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