改訂新版 世界大百科事典 「ヤマアイ」の意味・わかりやすい解説
ヤマアイ
mercury
Mercurialis leiocarpa Sieb.et Zucc.
亜熱帯~暖温帯の木陰に群生するトウダイグサ科の常緑多年草。本州~沖縄,中国,朝鮮,台湾,インドシナに分布する。太平洋側の北限は関東地方だが,日本海側では青森県まで北上する。白い地下茎が長くはい,栄養繁殖を行う。茎は直立し,高さ30~50cm。葉は対生し,長楕円披針形~卵状楕円形で,鋸歯があり,葉身は長さ10cm内外。濃緑色を呈し,質は薄く,粗毛がある。雌雄異株。3~5月ころ,葉腋(ようえき)に穂状花序をつけ,緑色の小さな単性花が数個ずつ集まってつく。果実はやや球形の2分果からなる。ヤマアイは日本における最古の染料植物といわれ,生葉をつき砕いて出た汁により青磁色に染まり,これを山藍摺(ず)りとよぶ。この青色色素はインジゴではなく,シアノヘルミジンで,水洗すると落ち,赤く変色しやすい。中国からアイ(タデアイ)が伝来するとすたれたが,皇室の神事に用いられる小忌衣(おみごろも)の染色には,現在でも京都の石清水(いわしみず)八幡宮から採られたものが用いられる。また《枕草子》などの古典文学の世界では,趣のあるものとして珍重された。ヤマアイ属Mercurialisはユーラシア大陸に7種みられる。
執筆者:森田 竜義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報