ヨウ化水素(読み)ようかすいそ(その他表記)hydrogen iodide

改訂新版 世界大百科事典 「ヨウ化水素」の意味・わかりやすい解説

ヨウ(沃)化水素 (ようかすいそ)
hydrogen iodide

化学式HI。無色,刺激性のある発煙性の気体で,液体は淡黄色を呈する。融点は-50.8℃,沸点-35.1℃,臨界温度150.8℃。気体の密度は5.66g/cm3(0℃,1気圧)で,空気の4.77倍。液体の密度は2.799g/cm3(-35.4℃)。気体におけるHI分子のH-I結合距離は1.609Å。双極子モーメントは0.38D(Dは双極子モーメントの単位デバイの略で,1D=3.336×10⁻30C・m)で,H-I結合のイオン性は5%。固体正方晶系に属する。水に溶けやすく,水溶液ヨウ化水素酸と呼ばれ,強酸性を示し,事実上完全解離している。酸化されてI2を生じやすいので強い還元剤となる。水和物としてHI・4H2O(融点-36.5℃),HI・3H2O(-48℃),HI・2H2O(約-42℃)の3種が知られている。光によって分解しやすい。多くの金属,金属酸化物,水酸化物,炭酸塩などと反応して金属ヨウ化物を生ずる。有機化合物の二重結合に付加し,ヨウ素化合物をつくる。高温でH2とI2とからHIが生ずる反応は平衡にあり,正逆反応とも2分子反応であることが古くから知られている。

 H2+I2─→2HI

ヨウ化物にリン酸の濃厚溶液を作用させ,静かに加熱すればヨウ化水素の気体が得られる。

 2KI+H3PO4─→K2HPO4+2HI

ヨウ素を水に懸濁させて冷却し,水でねった赤リンをきわめて徐々に加えると,初めに生じたヨウ化リンの加水分解反応によりヨウ化水素が生ずる。

 PI5+4H2O─→5HI+H3PO4

発生したヨウ化水素は湿った赤リン上を通じて混在するヨウ素を除く。またヨウ素を水中に懸濁させ,硫化水素を通じてヨウ素を還元しても得られる。

 H2S+I2─→2HI+S

得られたヨウ化水素の水溶液を五酸化リン上に滴加して脱水すればヨウ化水素の気体が得られる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヨウ化水素」の意味・わかりやすい解説

ヨウ化水素
ようかすいそ
hydrogen iodide

水素とヨウ素の化合物。赤リンとヨウ素の混合物に水を滴下して得られる。

  2P+5I2+8H2O→10HI+2H3PO4
市販の57%ヨウ化水素酸を五酸化二リン上に滴下しても得られる。無色の気体。特有の刺激臭がある。水には熱を発して溶けヨウ化水素酸となる。冷水から一、二、三、四水和物が得られる。エタノールエチルアルコール)にも溶ける。強い還元剤で、酸化剤や光によっても分解されヨウ素を遊離する。刺激性で皮膚や粘膜を冒すので、取扱いには注意を要する。

[守永健一・中原勝儼]


ヨウ化水素(データノート)
ようかすいそでーたのーと

ヨウ化水素
  HI
 式量     127.9
 融点     -50.8℃
 沸点     -35.4℃
 密度(比重) 気体 5.66g/dm3
        液体 2.799(沸点)
 結晶系    固体 面心立方
 溶解度    238g/1000g(水10℃,1気圧)
 臨界温度   150.8℃

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「ヨウ化水素」の解説

ヨウ化水素
ヨウカスイソ
hydrogen iodide

HI(127.91).ヨウ化物にリン酸を加えて熱するか,ヨウ素と水素とを白金触媒を用いて直接反応させるか,ヨウ素と水の混合物に赤リンを加えて反応させると得られる.無色,特有の刺激臭のある気体.融点-50.8 ℃,沸点-35.4 ℃.水に易溶.水溶液はヨウ化水素酸という.エタノールに可溶.塩化水素や臭化水素より液化しやすく,またそれらより不安定で,酸化されやすく強い還元剤として作用する.多くの酸化剤や光によって分解され,ヨウ素を遊離する.塩素および臭素とただちに反応してヨウ素と塩化水素および臭化水素を生じる.また,塩化物や臭化物と反応してヨウ化物を生じる.多くの金属や金属の酸化物,水酸化物と反応して金属のヨウ化物を生じる.還元剤,ヨウ素化合物の製造,ドライエッチング剤などに用いられる.ゴムを侵し,また皮膚や粘膜もおかす.有毒.[CAS 10034-85-2]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヨウ化水素」の意味・わかりやすい解説

ヨウ化水素
ヨウかすいそ
hydrogen iodide

化学式 HI 。無色,刺激性のガスで不燃性。空気中では発煙する。融点-50.8℃,沸点-35.1℃,臨界温度 151.0℃,臨界圧 82.0気圧。水によく溶け,ヨウ化水素酸を生じる。低級アルコールと反応し,ヨウ化アルキルを生じる。大気圧下ドライアイスで冷却すると無色の液体となる。ヨウ化水素酸は強い腐食性のある強酸で,天然ゴムを激しくおかす。大気,光に当ると黄色ないし褐色に変る。共沸混合物は沸点 127℃ (1気圧) ,比重 1.70で,56.9%のヨウ化水素を含む。還元剤,無機ヨウ化物の製造,医薬器の消毒,殺菌剤,分析試薬などとして用いられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のヨウ化水素の言及

【ハロゲン化水素】より

…フッ化水素HF,塩化水素HCl,臭化水素HBr,ヨウ化水素HIおよびアスタチン化水素HAtの総称。ハロゲン原子と水素原子との結合はフッ化水素を除いてはイオン性よりもむしろ共有結合性で,結合のイオン性の程度はつぎのようである。…

【ヨウ素(沃素)】より

…I2+2KOH=KI+KIO+H2O),過ヨウ素酸(ヨウ素酸を電解酸化する)がある。過酸化水素と反応してヨウ化水素を生ずるが(H2O2+I2=2HI+O2),生じたヨウ化水素は再び酸化される(2HI+H2O2=I2+2H2O)。このため,ヨウ素の生成と酸素の発生は間欠的に行われる。…

※「ヨウ化水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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