日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラージプート絵画」の意味・わかりやすい解説
ラージプート絵画
らーじぷーとかいが
16世紀から19世紀前半にかけて、北西インドでラージプート諸王侯の保護のもとに制作された絵画。同時期のムガル帝国の宮廷で発達したムガル絵画の影響も無視できないが、ムガルの細密画が現実的・写実的なのに対して、これはヒンドゥー教、とくにビシュヌ神信仰と深く結び付いて発達した、庶民的な宗教美術である点に特色がある。
したがって、もっとも愛好された主題は、若く美しい青年クリシュナ(ビシュヌ神の8番目の化身)と牧女ラーダーとの恋物語で、世俗的な表現をとるものの、あくまでも信仰の象徴として描かれている。この2人の恋を現実の男女の姿に仮託して表現する場合もあるが、そこでは男女関係はいくつかの類型に分けられ、それぞれの画面構成が細かく規定された。また、インド古典音楽の旋律理論「ラーガ」と結び付けて視覚化した楽曲画(ラーグマーラー)もつくられている。
流派は、西部のラージャスターニー派、北部パンジャーブと西部ヒマラヤ地方のバハーリー派に二大別され、前者は平地派、後者は山地派ともよばれる。この2派は、表現技法上の特色によってさらに多くの分派を生んでいる。総じてラージプートの細密画は、鮮明な色彩を濃厚に平面的に塗り、強く細い輪郭線を用いて人物や動物などはかなり写実的に描くが、背景の家や木などは形式化されているのが特色である。
[永井信一]