改訂新版 世界大百科事典 「ラージプート絵画」の意味・わかりやすい解説
ラージプート絵画 (ラージプートかいが)
北西インドを中心に16~19世紀中期に,ラージプートの王侯の保護のもとに制作された細密画。同時期のムガル細密画の影響を無視できないが,主題,画法ともに大いに異なり,ラージプート絵画はヒンドゥー教ことにビシュヌ神信仰と深く結びついて展開した。最も好まれた主題は,若くて美しい牛飼いの青年クリシュナと乳しぼりの乙女ラーダーとの恋である。ビシュヌ神の化身であるクリシュナの伝説は《バーガバタ・プラーナ》に詳しく,12世紀末のジャヤデーバの《ギータゴービンダ(牛飼いの歌)》はクリシュナと牧女との恋を美しくうたい上げている。世俗的にみえる二人の恋も,実は神と人間との恋であり,信仰の極致の象徴である。また二人の恋を現実の男女に置き換えて,恋心を抱く女性の八つの類型を絵画化したものや,音楽の旋律をいくつもに分類して視覚化した楽曲画(ラーグマーラー)もある。
その表現は一般に観念的で,強く細い輪郭線を重んじ,鮮明な色を濃厚に平塗りし,背景の大地,家屋,樹木を思いきって形式的に描く。流派はインド西部のラージャスターニー派とインド北部のパンジャーブおよび西部ヒマラヤ地方のパハーリー派とがあり,前者を平地派,後者を山地派とも呼ぶ。前者には太く大づかみな線と平塗りによる原色の大きな色面とを特色とするメーワール派,渋い彩色による構成感を表すブンディー派,メーワールと共通しながらも渋い色調のマールワー派,流れるように優美な身体,目尻のつり上がった大きな眼や高い秀でた鼻など個性的な顔,抒情的な背景描写を特色とするキシャンガル派その他の分派があり,後者には配色が大胆で意匠的なバソーリー派,ムガル細密画に近いが形式美を強調したジャンムー派,繊細で調和がとれ風景の抒情的な表現を特色とするカーングラー派などがある。
執筆者:肥塚 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報