リップス(読み)りっぷす(英語表記)Theodor Lipps

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リップス」の意味・わかりやすい解説

リップス
りっぷす
Theodor Lipps
(1851―1914)

ドイツの心理学者、哲学者。チュービンゲンユトレヒトボンの各大学で学ぶ。ボン、ブレスラウブロツワフ)を経て、1894年以降ミュンヘンの大学で心理学、倫理学、美学を講じた。心理学と哲学との一致を説き、哲学上の心理主義を代表するが、その学説のうち今日でもよく知られているのが感情移入説である。リップスによると、他我認識に関する従来の類推説、つまり他我の心は他我の身体表出からの類推という操作によって知られるとする説は誤りで、他我の心は自我の心を直接他者の身体のうちに移入することによって知られる。他我は、その意味で、自我の客体化されたものである。この広義での感情移入(自我の客体化)を全認識領域に適用し、たとえば重力とか弾力性といった物理的概念も、物の世界への感情移入によって生ずると主張した。著書に『倫理学の根本問題』(1899)、『心理学原論』(1903)、『美学』2巻(1903~1906)。

[宇都宮芳明]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リップス」の意味・わかりやすい解説

リップス
Lipps, Theodor

[生]1851.7.28. ワルハルベン
[没]1914.10.17. ミュンヘン
ドイツの心理学者,哲学者。ボン,ブレスラウ (現ウロツワフ) ,ミュンヘンの各大学教授を歴任。心理学は内省によってとらえられる意識体験についての経験科学であり,かつ実在 (意識) を直接とらえるという意味での実在の本質に関する哲学の一部門でもあると説く心理主義の代表者とされているが,後期ではその立場はやや緩和され,心理現象の因果性を説く説明的心理学をも認めた。空間知覚,錯視,造形美の研究のほかに,美意識についての感情移入説は特に有名で,他人の精神生活の認識もこの移入に基づくとした。主著『精神生活の根本問題』 Grundtatsachen des Seelenlebens (1883) ,『倫理的根本課題』 Die ethischen Grundfragen (99) ,『美学』 Ästhetik (2巻,1903~06) ,『心理学入門』 Leitfaden der Psychologie (03) ,『哲学と実在』 Philosophie und Wirklichkeit (07) 。

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