日本大百科全書(ニッポニカ) 「リプシッツ」の意味・わかりやすい解説
リプシッツ
りぷしっつ
Jacques Lipchitz
(1891―1973)
リトアニア出身のフランスの彫刻家。ドルスキエンキ生まれ。1909年パリに出て、エコール・デ・ボザールに通い、また彫刻をアカデミー・ジュリアン、素描をアカデミー・コラロッシで学ぶ。13年、メキシコの画家ディエゴ・リベラの紹介でキュビスムの画家たちと知り合い、マックス・ジャコブ、モディリアニ、スーチン、ピカソらと親交を結ぶ。16年、グリスと出会い、キュビスムだけでなく未来派からの影響も受け、角張った形態を対比、または交錯させて光の明暗を強調し、彫像に量塊をもたせようと試みる(1918年の『ギターを持つ男』、デュースブルク国立美術館)。24年、フランスの市民権を得る。25年から、空中に描かれる線のように、つとめて素材の物質感を排し、自らの感覚的な体験を純粋に表現しようとする『ハープ奏者』(1928)など、「透明」な彫刻の連作が始まる。36~38年、パリ万国博覧会のために『禿鷹(はげたか)を絞め殺すプロメテウス』の巨大な石膏(せっこう)像をフランス政府より委嘱されて制作。これ以後、量塊性(マツス)あふれる造形によって、人間と動物の激情的な生命のドラマを表現した作品が多い。41年アメリカに亡命。62年からは毎夏イタリアのピエトラサンタに滞在し、制作と作品の鋳造に従事した。自叙伝『彫刻の中の自伝』(1972)があり、その刊行にあわせて同じタイトルの展覧会がニューヨーク近代美術館で開かれた。イタリアのカプリに没。
[上村清雄]