改訂新版 世界大百科事典 「リュシアス」の意味・わかりやすい解説
リュシアス
Lysias
生没年:前445ころ-前382以降
アテナイで活躍した弁論家,演説作者。シチリア島から移住した在留外人の子で,若いころ弁論術の修業をした。知的・経済的エリート層に属していたが,ペロポネソス戦終結直後前404年の政変で財産は没収され,兄弟を殺されて一時的に亡命した。この暴政を行った〈三十人僭主〉の一人に向けた《エラトステネス糾弾》(第12弁論)はみずから演説したとされるが,大部分の作品は各事件当事者の依頼を受けて書かれたものと思われる。技巧を技巧と感じさせない平明な文体と,当事者の立場によく合った生き生きした叙述は,整った弁論形式とあいまって,古代以来ルネサンスから現代に至るまで弁論の手本,アッティカ散文の典型とされる。現在彼の名で伝わる主作品は34編で,法廷,議会,式典という弁論の3ジャンルにわたり,題材も,役人の資格審査,贈収賄,穀物価格のつり上げ,殺人傷害事件など政治的社会的に多様で,歴史資料としても重要である。
執筆者:細井 敦子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報