わが銀河系のすぐ隣にある銀河。大マゼラン星雲(赤経5時23.6分、赤緯マイナス69度45分、かじき座)と小マゼラン星雲(赤経0時52.7分、赤緯マイナス72度50分、きょしちょう座)の二つの不規則型銀河からなり、天球上互いに約23度離れている。視直径はそれぞれ10.8度、4.7度と非常に大きく、肉眼では淡い小さな雲のように見え、南十字星とともに南半球の空を代表する天体。15世紀ごろから南方へ行く船乗りの間でその存在が知られていたが、初めて世界一周の航海をしたマジェランにちなんで名づけられた。
距離が約16万光年と、わが銀河系にいちばん近い銀河で、その明るい星々は一つ一つに分解して観測できるため、天文学上、きわめて重要な天体である。1912年、H・リービットは、マゼラン星雲中に多くのケフェウス型変光星をみつけ、その変光周期と光度との間によい相関があることを発見した。これは、その後、天体の距離を測る強力な手段となり、1923年、E・ハッブルによる「銀河系外星雲(銀河)」の概念の確立へとつながった。1970年代になって、南半球でも巨大な望遠鏡が建設されると、マゼラン星雲内の星団や、HⅡ領域、暗黒星雲などがより詳しく観測できるようになり、星や銀河の構造、進化、化学組成などの研究に欠くことのできない天体となっている。最近、マゼラン星雲を取り囲む水素ガス雲が発見され、これらが天球上をほぼ一周するように分布していることから、大小マゼラン星雲は互いに重力的に引き合う二重銀河となってわが銀河系の周囲を約10億年かけて回っているとの説が有力である。
[若松謙一]
1987年2月23日、大マゼラン星雲の周辺部で突如明るい星が輝き始めた。超新星1987Aである。超新星とは、太陽の8倍以上の重い星が年老いて死滅するとき、星の中心部が突然つぶれて温度が数億度にもなり、原子核反応が急激に進み、星全体が大爆発を起こす現象である。暗かった星が突如として約1か月間、太陽の数百億倍の明るさで輝き続ける。肉眼で見える明るさにまで輝いた近距離の超新星が観測されたのは、1604年のケプラーによる銀河系内の超新星の発見以来で、実に約400年ぶりのできごとであった。望遠鏡が発明されて以降、これだけ明るい超新星の爆発は初めてであり、世界の大望遠鏡が一斉に観測を始め、超新星爆発のメカニズムや重元素合成過程の研究について、これまでに次の新事実が観測されている。
(1)超新星爆発で原子核反応が起こるときには、ニュートリノとよばれる物質が大量に発生することが理論的に予言されていた。ニュートリノとは電気を帯びていない中性の素粒子で、他の物質と作用する力がきわめて弱く、したがって地球をも簡単に突き抜けてしまう奇妙な物質である。東京大学宇宙線研究所はニュートリノ研究のため、岐阜県吉城(よしき)郡神岡町(現、飛騨(ひだ)市神岡町)の神岡鉱山の地下1000メートルに小柴昌俊(こしばまさとし)考案のカミオカンデとよばれる巨大なニュートリノ検出装置を設置した。この装置が、大マゼラン星雲の超新星からやってきたニュートリノ11粒を1987年2月23日の7時35分から13秒間の間に検出し、世界の天文学者や原子核物理学者を驚かせた。ニュートリノは爆発時に解放されるエネルギーの99.9%を持ち去っていくと推測されており、超新星の爆発メカニズム解明に重要な貢献をした。
(2)爆発後数か月して、強いX線やγ(ガンマ)線が検出された。超新星爆発で多くの放射性元素が形成され、爆発時の激しい原子核反応のようすが解明されてきた。
(3)超新星からの強い電波が検出され、高エネルギー電子などの宇宙線が大量に形成されたことを物語っている。
(4)爆発の引き金となった星の中心部は直径約10キロメートルの大きさにまでつぶれて中性子星となり、パルサーとして観測されることが理論的に予言されていた。X線や電波でも幾度となく検出が試みられているが、1999年現在、いまだ検出されていない。
(5)ハッブル宇宙望遠鏡での観測によると、超新星の周りでは、楕円形の三重構造のリングが形成されており、その形態が1年ごとにどんどん変化している。超新星爆発の前に形成されていたリングが超新星の光の作用で輝きはじめたらしい。しかし、リングの形成メカニズムは不明である。
一般に、超新星は爆発後数万年にわたって強い電波やX線を放出し続ける天体であり、宇宙における元素形成や高エネルギー物理学の貴重な実験現場である。したがって、超新星1987Aは現代天文学の最重要な天体であり、人類が続く限り永遠にいろんな手段で観測が続けられるであろう。なお、カミオカンデでの観測は、より大型化した装置スーパーカミオカンデに引き継がれた。
[若松謙一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そのため,銀河全体の色もアンドロメダ銀河などの渦巻銀河に比べて青みがかって見えている。銀河ではあるが,昔からの言い方に従ってマゼラン星雲Magellanic cloudと呼ぶこともある。【磯部 琇三】。…
※「マゼラン星雲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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