ロッキー山紅斑熱

内科学 第10版 「ロッキー山紅斑熱」の解説

ロッキー山紅斑熱(リケッチア感染症)

(2)ロッキー山紅斑熱(Rocky Mountain spotted fever)【⇨4-11-3)】
病原体
 Rickettsia rickettsii.
分布・感染経路・臨床症状
 本来北アメリカのロッキー山脈地方の地方病であるが,最近はアメリカ東海岸地方で患者が多発している.わが国には存在しない.小齧歯類あるいはイヌをリザーバーとするRickettsia rickettsiiがベクターマダニ類)を介して人に感染する.
 潜伏期の後,突然悪寒とともに発熱し,激しい頭痛,筋肉痛,関節痛,衰脱感を伴う.約2~3週間高熱が持続した後解熱する.発疹は90%以上に認められる.重症では髄膜炎ないし髄膜脳炎を併発し不穏,興奮,不随意運動,痙攣,片麻痺,難聴,意識障害などを起こし,腎不全,間質性肺炎,循環器症状も高度となる.
検査成績
 血液所見は正常のことが多いが,初期には白血球数減少,後に軽度増加をみることがある.髄液は正常または軽度細胞増加を示す.
診断
 初期には臨床症状による鑑別は困難である.ダニ咬傷の既往が参考となる.血清学的診断法(間接蛍光抗体法,ELISA法,Weil-Felix反応)が有用である.
治療
 つつが虫病に準ずる.[三浦義治・岸田修二]
■文献
川並 透,溝口次郎,他:オリエンチヤツツガムシ.日本臨牀 領域別症候群シリーズNo26神経症候群―その他の神経疾患を含めて―,pp532-534,日本臨牀社,大阪,1999.
Walker DH, Raoult D : Rickettsia and other spotted fever group Rickettsias: Rocky mountain spotted fever and other spotted fever. In :Principles and Practice of Infectious Diseases, 6th ed (Mandell GL, Bennett JE, et al eds), pp2287-2295, Elsevier Churchill Livingstone, Philadelphia, 2005.

ロッキー山紅斑熱(リケッチア感染症)

疾患・概念
 Rickettsia rickettsiiによる急性感染症である.米国における代表的な紅斑熱群リケッチア症で,リケッチアを保有するマダニに刺されることで感染する.
臨床症状
潜伏期間は2~14日,頭痛,全身倦怠感,高熱などを伴って発症する.刺し口は通常みられない.高熱とほぼ同時に紅色の斑丘疹が手足などの末梢部から求心性に多発し,部位によっては点状出血を伴う.リンパ節腫脹がときにみられる.CRP陽性,血小板減少,肝機能異常などは日本紅斑熱と同様で,治療が遅れると中枢神経系症状,不整脈,乏尿,ショックなどの合併症を呈し,死亡率も高い.
診断
 発症時期はダニと接触する春~秋までが多く,受診直前の米大陸への渡航や現地活動に関する情報が重要である.IFA,IPなどによる抗体の検出,発疹部皮膚生検を用いたPCRなどが実施される.
治療
 テトラサイクリン系抗菌薬を使用する.[安藤秀二]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ロッキー山紅斑熱」の意味・わかりやすい解説

ロッキー山紅斑熱 (ロッキーさんこうはんねつ)
Rocky mountain spotted fever

単にロッキー山熱ともいう。リケッチアのRickettsia rickettsiによって起こり,森林中に生息するマダニ類(Dermacentor属)の刺咬により伝播される感染症。1909年に,H.T.リケッツが,この病気からリケッチアを発見したことで知られ,最初にロッキー山地から報告されたのでこの名があるが,南北両アメリカに広く分布している。日本には存在しない。春から夏にかけて発生が多い。潜伏期は3~12日で,頭痛,悪寒戦慄(せんりつ),筋肉痛,悪心,嘔吐とともに発熱する。放置すれば15~20日間発熱し,20%の死亡率がある。回復するときは漸次解熱する。発病後2~6日の間に,特有の発疹が出現する。発疹は紅色斑状で四肢から始まり,全身に広がるが,これはチフスの発疹と逆である。やがて丘疹,点状出血斑を呈し融合し,ときに痂皮(かひ)(かさぶた)を有する潰瘍となる。心筋障害,腎不全,肺炎,中耳炎,脳症状を合併することもある。他の発疹熱より重症となりやすい。ウェイル=フェリックス反応が陽性となるが,特異抗原を用いた血清診断が確実である。テトラサイクリン,クロラムフェニコールが最もよく効く。予防はダニの駆除である。ワクチンもつくられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロッキー山紅斑熱」の意味・わかりやすい解説

ロッキー山紅斑熱
ろっきーさんこうはんねつ
Rocky Mountain spotted fever

主としてアメリカ大陸に地方病的にみられるリケッチア性の急性熱性疾患で、単にロッキー山熱ともよばれる。日本には存在しない。病原体はリケッチア・リケッチイRickettsia rickettsiiで、1906年にアメリカの病理学者リケッツHoward Taylor Ricketts(1871―1910)によって発見されたことでも知られる。森林に生息するダニによって媒介される感染症で、潜伏期は平均7日。発熱、頭痛、悪寒戦慄(せんりつ)などにより急激に発病する。主要症状は、40℃前後の高熱、四肢末端から始まる紅斑性出血性発疹(ほっしん)、激しい頭痛などの神経症状などで、2~3週間にわたってみられる。早期診断、早期治療が予後を左右する。かつては死亡率が20~50%にも及んだが、抗生物質の早期投与によって死亡率は低下した。日本には存在しないとされているが、1984年(昭和59)以来、四国や九州で類縁疾患である日本紅斑熱の患者発生の報告がある。

[柳下徳雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のロッキー山紅斑熱の言及

【コロラドダニ熱】より

…アルボウイルス群に属するウイルスが,マダニの1種(Dermacentor andersoni)の体内で増殖し,刺咬によりヒトに伝播されて発症する感染症。カナダから北アメリカのロッキー山地に分布し,以前はロッキー山紅斑熱の軽症型と混同されていたが,1930年に独立疾患とされた。5~6月に多い。…

【熱帯医学】より

…痘瘡(とうそう)ウイルスによって引き起こされる痘瘡(天然痘)は,熱帯地方に広範にみられた風土病であったが,世界保健機関(WHO)の取組みによって根絶された。 リケッチア類によるものには,恙虫(つつがむし)病,ロッキー山紅斑熱,発疹熱などがある。恙虫病は,広く南太平洋から東南アジアにかけて分布しており,病原体をもったツツガムシに刺されて感染する。…

※「ロッキー山紅斑熱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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