日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローウィ」の意味・わかりやすい解説
ローウィ(Robert Heinrich Lowie)
ろーうぃ
Robert Heinrich Lowie
(1883―1957)
アメリカの人類学者。オーストリアのウィーン生まれ。ボアズ門下の一人で、モルガンらの進化主義学説に対し、豊富な民族誌資料を駆使して完膚なき批判を加えた。主著の一つ『原始社会』(1920)では、一夫一婦制に基づく単婚家族が進化の最後の発展段階でようやく出現したとするモルガン説に対し、ローウィは、夫と妻の結合に基礎を置く「基本家族」が狩猟採集民のような単純な社会をはじめとしてほとんど普遍的にみられると指摘した。またモルガン説で重要な役割をもつ氏族に関しても、民族誌資料を駆使してその多様性を指摘し、モルガン説に打撃を与えた。激しい進化論批判の反面、ローウィはマリノフスキーらの機能主義に対しても、文化の実体を無視し社会を閉じた人工的体系としてとらえているとし、懐疑的態度をとり続けた。ローウィ自身は、北米インディアンの民族誌作成をはじめとする詳細な民族誌的研究を重視し、壮大な理論構築は企てなかった。
しかし彼の関心は人類学のほとんど全領域に及び、親族組織から結社の研究に至るまで、彼の研究は今日なお刺激的な着想や示唆に満ちている。とりわけ、民族誌資料の検討から諸制度の変異や多様性を正確に把握するという方法を通じて、のちに体系的な比較を行う際に有益な変数を提出したという点は高く評価されている。彼の著作はきわめて広範にわたるが、その代表的なものに前出の『原始社会』のほか、『社会組織』(1948)がある。
[濱本 満 2019年1月21日]
『河村只雄訳『原始社会』(1939・第一出版社/河村只雄、河村望訳・1979・未来社)』