アメリカの哲学者、政治思想家。ニューヨークに生まれる。1949年シカゴ大学で学士号、1952年同大学院で修士号(「ホワイトヘッドにおける『可能態potentiality』概念の用いられ方」)、1956年エール大学で博士号(「『可能態』概念」)を取得。ウェルズリー大学講師、助教授、プリンストン大学準教授、教授、バージニア大学教授などを経て、1998年スタンフォード大学比較文学・哲学科教授に就任した。1967年に出版された『言語論的転回』の編者となりアメリカ分析哲学界の気鋭として脚光を浴びるが、その後フランス現代思想やハイデッガー存在論など分析哲学以外の知的潮流にもフィールドを拡(ひろ)げ、デューイに示唆を受けた独自のプラグラマティズムを構築。1990年代以降は、政治哲学の分野における発言、研究が注目された。
ローティの名を一躍有名にしたのは、1979年に上梓(じょうし)された『哲学と自然の鏡』であり、1981年度マッカーサー賞(画期的な業績を残した個人に与えられる。アメリカのノーベル賞ともいわれる)を受賞した。そこでは、(1)認識論が「本質」「自然」「実在」といった対象を表象representするという信念、つまりより精緻(せいち)な「自然の鏡」をつくりだす試みとして哲学をとらえる発想、および、(2)諸々の知識、学問的言説を基礎づける「万学の女王」という哲学の自己像(基礎づけ主義)が批判され、「客観的真理を発見することよりも、会話を継続させること」を目的とする啓発的哲学(ガダマーの解釈学やハイデッガーの存在論、デューイのプラグマティズムなど)が擁護されている。同書以降もローティは、デリダの脱構築論やリオタールのポスト・モダン論などを積極的に摂取しつつ、反基礎づけ主義を旗印とした「哲学批判」を精力的に展開し、アメリカにおける「ポスト・モダン哲学」の旗手と目されるようになった。
こうした「哲学批判」とならんでローティの仕事のなかで重要な位置づけを与えられているのが、反基礎づけ主義的なプラグマティズムを敷延(ふえん)した政治(哲)学的テーマである。その概要は、公的なもの/私的なものを峻別(しゅんべつ)し、急進主義を否定する改良主義的リベラリズムの擁護を図る、というものである。論文集『客観性、相対主義、真理』(1991)のなかで、「ポスト・モダン・ブルジョア・リベラリズム」という名前を与えられているその立場は、「社会正義の実現に哲学が寄与しうる」という信念を批判するという点において、『哲学と自然の鏡』以来の「哲学批判」の延長上にあるものといえる。1990年代に入ると、そうした「反哲学」的なリベラリズムの立場から、フランス現代思想の影響を受けたカルチュラル・レフト(抽象的な哲学的言辞によって政治を理論化しようと試みる知的潮流。カルチュラル・スタディーズ、ポスト・コロニアリズムなどが想定されている)に対する批判攻勢を強めた。
[北田暁大 2018年12月13日]
『野家啓一監訳・伊藤春樹他訳『哲学と自然の鏡』(1993・産業図書)』▽『リチャード・ローティ著、齊藤純一他訳『偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性』(2000・岩波書店)』▽『リチャード・ローティ著、須藤訓任・渡辺啓真訳『リベラル・ユートピアという希望』(2002・岩波書店)』▽『Objectivity, Relativism, and Truth(1991, Cambridge University Press, Cambridge)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新