ローティ(読み)ろーてぃ(英語表記)Richard Rorty

デジタル大辞泉 「ローティ」の意味・読み・例文・類語

ローティ(Richard Rorty)

[1931~2007]米国の哲学者プラグマティズムを徹底化するネオプラグマティズムの立場に立ち、認識論中心の西欧哲学の伝統を批判した。著「哲学と自然の鏡」「プラグマティズムの帰結」「偶然性、アイロニー、連帯」。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローティ」の意味・わかりやすい解説

ローティ
ろーてぃ
Richard Rorty
(1931―2007)

アメリカの哲学者、政治思想家。ニューヨークに生まれる。1949年シカゴ大学で学士号、1952年同大学院で修士号(「ホワイトヘッドにおける『可能態potentiality』概念の用いられ方」)、1956年エール大学で博士号(「『可能態』概念」)を取得。ウェルズリー大学講師、助教授、プリンストン大学準教授、教授、バージニア大学教授などを経て、1998年スタンフォード大学比較文学・哲学科教授に就任した。1967年に出版された『言語論的転回』の編者となりアメリカ分析哲学界の気鋭として脚光を浴びるが、その後フランス現代思想やハイデッガー存在論など分析哲学以外の知的潮流にもフィールドを拡(ひろ)げ、デューイに示唆を受けた独自のプラグラマティズムを構築。1990年代以降は、政治哲学の分野における発言、研究が注目された。

 ローティの名を一躍有名にしたのは、1979年に上梓(じょうし)された『哲学と自然の鏡』であり、1981年度マッカーサー賞(画期的な業績を残した個人に与えられる。アメリカのノーベル賞ともいわれる)を受賞した。そこでは、(1)認識論が「本質」「自然」「実在」といった対象を表象representするという信念、つまりより精緻(せいち)な「自然の鏡」をつくりだす試みとして哲学をとらえる発想、および、(2)諸々の知識、学問的言説を基礎づける「万学の女王」という哲学の自己像(基礎づけ主義)が批判され、「客観的真理を発見することよりも、会話を継続させること」を目的とする啓発的哲学(ガダマーの解釈学やハイデッガーの存在論、デューイのプラグマティズムなど)が擁護されている。同書以降もローティは、デリダの脱構築論やリオタールのポスト・モダン論などを積極的に摂取しつつ、反基礎づけ主義を旗印とした「哲学批判」を精力的に展開し、アメリカにおける「ポスト・モダン哲学」の旗手と目されるようになった。

 こうした「哲学批判」とならんでローティの仕事のなかで重要な位置づけを与えられているのが、反基礎づけ主義的なプラグマティズムを敷延(ふえん)した政治(哲)学的テーマである。その概要は、公的なもの/私的なものを峻別(しゅんべつ)し、急進主義を否定する改良主義的リベラリズムの擁護を図る、というものである。論文集『客観性、相対主義、真理』(1991)のなかで、「ポスト・モダン・ブルジョア・リベラリズム」という名前を与えられているその立場は、「社会正義の実現に哲学が寄与しうる」という信念を批判するという点において、『哲学と自然の鏡』以来の「哲学批判」の延長上にあるものといえる。1990年代に入ると、そうした「反哲学」的なリベラリズムの立場から、フランス現代思想の影響を受けたカルチュラル・レフト(抽象的な哲学的言辞によって政治を理論化しようと試みる知的潮流。カルチュラル・スタディーズ、ポスト・コロニアリズムなどが想定されている)に対する批判攻勢を強めた。

[北田暁大 2018年12月13日]

『野家啓一監訳・伊藤春樹他訳『哲学と自然の鏡』(1993・産業図書)』『リチャード・ローティ著、齊藤純一他訳『偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性』(2000・岩波書店)』『リチャード・ローティ著、須藤訓任・渡辺啓真訳『リベラル・ユートピアという希望』(2002・岩波書店)』『Objectivity, Relativism, and Truth(1991, Cambridge University Press, Cambridge)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ローティ」の意味・わかりやすい解説

ローティ
Rorty, Richard

[生]1931.10.4. ニューヨーク,ニューヨーク
[没]2007.6.8. カリフォルニア,パロアルト
アメリカ合衆国のプラグマティズム哲学者,知識人。フルネーム Richard McKay Rorty。シカゴ大学とエール大学で学び,1956年に博士号を取得。軍務についたのち,1958~61年ウェルズリー・カレッジ,1961~82年プリンストン大学でそれぞれ哲学を教えた。その後,バージニア大学を経て,1998~2005年スタンフォード大学で比較文学を教えた。現代哲学を確実性と客観的真実を追究する疑似科学的な営みと考え,全面的に批判したことで知られる。政治面では,左右両派の主張に反対し,みずから命名した改革的な「ブルジョア・リベラリズム」を支持した。認識論の分野では,すべての知識は,それ自体正当化の必要がない基礎的信念によって基礎づけられる(正当化される)とみる基礎づけ主義に異を唱えた。また形而上学におけるリアリズムと反リアリズム,あるいは観念論をともに言語に対する表象主義的な誤った認識の産物として否定した。著書に『哲学と自然の鏡』Philosophy and the Mirror of Nature(1979),"Consequences of Pragmatism"(1982),『偶然性・アイロニー・連帯――リベラル・ユートピアの可能性』Contingency, Irony, and Solidarity(1989)などがある。(→プラグマティズム

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