日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローマ・クラブ」の意味・わかりやすい解説
ローマ・クラブ
ろーまくらぶ
科学者、経済学者、教育者、経営者などで構成されたスイス法人の民間組織。産業の発展によって病み始めたこのかけがえのない地球で、はたして人類はわれわれの孫の世代まで生存できるのかといった危機感から、複雑に絡んだ「地球問題症候群」の分析に取り組む非政府系の研究団体である。ローマ・クラブの名称は、創設者で、オリベッティ社のA・ペッチェイAurelio Peccei(1908―84)を中心に、最初の会合が1968年4月イタリア・ローマで開かれたことに由来する。70年4月スイス法人として認可。
ローマ・クラブが世界的な存在として認知されたのは、第1回の報告書『成長の限界』(1972)の発表による。その内容は、マサチューセッツ工科大学のメドゥズDennis Meadows(1942― )の研究グループが、システム・ダイナミックス(インダストリアル・ダイナミックス)の手法を用いて、全地球的システムのコンピュータ・モデル化を行い、地球の将来を約100年間にわたって推定した結果の報告書で、全地球の人口増加による食糧不足、産業による環境汚染や天然資源の枯渇などによって、現在のままでの経済成長は不可能であり、成長は限界点に達する、という衝撃的なものであった。1970年代までのバラ色の経済成長論に対して、「ゼロ成長」「持続可能な経済成長」といった新しい考え方が提示された意義は大であった。続いて、第2回の報告書『転機に立つ人間社会』(1974)、第3回『国際秩序の再編成』(1976)、第4回『浪費の時代を超えて』(1976)、第5回『人類の目標』(1980)、第6回『限界なき学習』(1980)、第7回『効率型社会への道程図』、第8回『マイクロ電子技術と社会』(1983)などが次々に出版された。また世界でローマ・クラブに直接、間接にかかわった人々の著書も数多くあり、その影響力は大きい。それは、ローマ・クラブが「持続的成長」「宇宙船地球号」「地球社会」「地球環境」「自然保護」「かけがえのない地球」「地球的に考え、地域的に活動する」など次々に新しい考え方を打ち出してきたことによる。
日本では、創設以来、外務大臣経験者の大来佐武郎(おおきたさぶろう)ほか10名が参加した。ローマ・クラブの総会は東京で2回、ローマ・クラブ地域会議が福岡市で1回、ローマ・クラブの若者中心の「フォーラム・ヒューマナム」が福岡市で1回開催された。1984年、会長ペッチェイの死後、世界的研究活動が減少し、2000年にはヨーロッパで若干の活動がみられるだけになったが、ローマ・クラブが提唱した数々の具体案が、各国で具体的政策として実行されていることから、ローマ・クラブの先見性は高く評価されている。
[伊藤重行]
『D・H・メドウズ他著、大来佐武郎監訳『成長の限界』(1972・ダイヤモンド社)』▽『M・メサロヴィック著、大来佐武郎監訳『転機に立つ人間社会』(1975・ダイヤモンド社)』▽『Y・ティンバーゲン著、茅陽一監訳『国際秩序の再編成』(1977・ダイヤモンド社)』▽『D・ガボール、U・コロンボ著、鈴木胖監訳『浪費の時代を超えて』(1979・ダイヤモンド社)』▽『E・ラズロー著、大来佐武郎監訳『人類の目標』(1980・ダイヤモンド社)』▽『J・W・ボトキン他著、大来佐武郎監訳『限界なき学習』(1980・ダイヤモンド社)』▽『ボーダン・ハウリリシン著、大来佐武郎監訳『効率型社会への道程図』(1982・ダイヤモンド社)』▽『G・フリードリヒ、A・シャフ著、森口繁一監訳『マイクロ電子技術と社会』(1983・ダイヤモンド社)』▽『A・ペッチェイ著、大来佐武郎監訳『未来のための100ページ』(1981・読売新聞社)』▽『A・ペッチェイ著、大来佐武郎監訳『人類の使命』(1981・ダイヤモンド社)』▽『D・H・メドウズ、D・L・メドウズ、J・ランダース著、松橋隆治・村井昌子訳『限界を超えて』(1992・ダイヤモンド社)』▽『ローマ・クラブ福岡会議イン九州実行委員会編『地球環境と地域行動――ローマ・クラブ福岡会議イン九州の記録』(1993・清文社)』▽『鳩山由起夫著『「成長の限界」に学ぶ』(2000・小学館)』