改訂新版 世界大百科事典 「ワタスゲ」の意味・わかりやすい解説
ワタスゲ
cotton-grass
Eriophorum vaginatum L.ssp.fauriei (E.G.Camus) T.Koyama
穂全体が熟すと白い綿毛におおわれるカヤツリグサ科の高山植物。多年草で,細い葉と茎が密生して大きな株となる。葉は大部分が根生し1~2枚が茎上生で,針金のような線形,幅は1mmくらいである。茎は円柱形で高さ60cmほど,途中に茶色から黒っぽい膜質の鞘(さや)が1個ある。6~8月に出る小穂は1個で茎に頂生し,薄膜質で灰黒色の鱗片がたくさんつく。両性花には6本の刺針があり,果実が熟すころ,それらが2~3cmにも伸びて,白色の綿毛となり鱗片からはみ出してくるので,小穂全体が綿毛をかぶってたんぽ槍のようにみえる。日本のワタスゲはシベリアに広く分布するE.vaginatum L.の亜種に当たり,北海道の低地や高地から本州の主な高山帯にある高層湿原に見られ,中国北部から東シベリアやサハリンに分布する。サギスゲE.gracile Koch ssp.coreanum(Palla)T.Koyamaでは綿毛に包まれた小穂が2~5個ずつ多少傾いて茎の頂につき,遠くから見るとシラサギが群れて飛んでいるように見える。
執筆者:小山 鐵夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報