日本大百科全書(ニッポニカ) 「アオコ」の意味・わかりやすい解説
アオコ
あおこ / 青粉
淡水産単細胞藻類の一群の総称。湖や池、養魚池、金魚鉢、熱帯魚水槽などの水が、春から夏にかけて緑色に濁ることが多い。これは水中にプランクトン性の単細胞藻類が繁殖したためであり、これらを一般に「アオコ」あるいは「アオコがわいた」という。これらの単細胞藻には分類学上からみると、藍藻(らんそう)植物のミクロシスティスMicrocystis、アナベナAnabaena、アナベノップシスAnabaenopsisなどの諸属、または緑藻植物のクロレラChlorella、セネデスムスScenedesmus、クラミドモナスChlamydomonasなどの諸属の種があり、それぞれの条件下で出現の属種が異なるが、いずれも大きさは10マイクロメートル内外の微細体である。たとえば、家庭の庭園の池や金魚鉢などでは、緑藻のクロレラやセネデスムスの類の出現が多く、水の色は初期は鮮緑色、のちに濃緑色になる。これに対し、養鰻(ようまん)池など、投与した飼料で有機物含有が多くなった水中では、藍藻のミクロシスティスやアナベナの出現が多く、水の色も当初から青緑色を呈する。近年、湖沼の汚染により、富栄養化した水中にアオコの大発生が伝えられるが、この場合のアオコとは後者の藍藻類であるとみてよい。
単細胞藻としてのアオコは、魚貝類の餌料(じりょう)となったり、光合成を行って酸素を発生するなど、魚貝類の生活にとって重要な役割を果たしているが、こうした効用はアオコの繁殖濃度が適切な状態にある場合に限られ、繁殖濃度が旺盛(おうせい)すぎたときには、往々にして短時間内に全魚貝類を一斉に殺してしまうという大被害を与えることがある。繁殖濃度が旺盛すぎた状態を俗に「水の華」water bloomという。また魚貝類が一斉に死ぬ前に、水面近くまで浮き上がって泡を吹くような状況になるのを「鼻上げ」という。さらに魚貝類が一斉に死んだあとでは、水中に浮遊していたアオコ類も死んで沈降してしまい、水の色も生気のないさび色に変色するために、この状態を「水変り」あるいは「水荒(さび)」という。すなわち、水の華、鼻上げ、水変りなどの語は、関連する一連の諸変化を別々の視点から表現したものといえる。このような水の色の変化さらには魚貝類への被害が海中でおこる場合が、いわゆる「赤潮」である。
アオコの大繁殖による魚類の被害は、かつてはウナギやコイなどの養魚池でしばしばおこり、ときには各地の堀や古池でも発生していた。その発生時期は4~5月ごろから8月末ごろまでで、暖かくなって湿度が高く、しかも無風状態が2~3日続いたあとの、夜半から明け方にかけてが多かった。魚類が一斉に死ぬ原因については未解明な点も残されているが、いちおう、夜間におけるアオコ類の呼吸作用で酸素が消費され、水中の酸素欠乏がおこる(ことに「へどろ」の多い池底近くでは酸欠がひどくなる)ことが主因と推定されている。このため被害防除法として、河水のように、つねに水を流したり、水車式の機械で池水に酸素を補給し続けるなどの方法が開発され、とりわけ、水車式方法が多用されて以後、水の華はおこっても魚の一斉死は防げるようになった。日本での養鰻業の中心地である静岡県浜名湖周辺の各養鰻池で、水しぶきをあげて水車が回っているのが水車式方法である。
なお、藍藻類のアオコの大繁殖による動物への被害は、日本では魚類でとどまっているが、南北アメリカ、オーストラリア、南アフリカ、中東などの諸地域では、放牧場内のアオコのわいた池水を飲んだ牛馬などの死を含めての被害が報じられている。これらの被害原因は、酸欠ではなくて、アオコがつくったある種の有毒物質によると考えられている。近年日本でもおこっている琵琶(びわ)湖、霞ヶ浦(かすみがうら)その他の湖沼でのアオコ大繁殖では、まだこのような家畜類への被害は報じられていない。それにしても、アオコ類の大繁殖のあとでは、湖水が往々にして異臭を帯びたり、濾過(ろか)しがたくなるなど、湖周辺住民の生活に悪影響を与えることが多い。なお、アオコ類の大繁殖を促す環境条件は、諸要因が複雑に絡み合っているので的確にはわかっていないが、家庭用洗剤からの有機リンが重要な働きをすることは判明している。
[新崎盛敏]