翻訳|agribusiness
アグリビジネスとは、農業とその関連企業、産業を総括した概念として用いられる。狭い意味での農業は、土地利用を基本とした動・植物を育てる農耕や畜産のこととして理解されるが、アグリビジネスは、農業を中核として、種子、肥料、農業機械、飼料、農薬、燃料などの生産資材を供給する部門、あるいは農産物を加工する食品工業部門、運送、貯蔵、貿易、卸売り、小売りなどを行う流通部門、さらには飲食店などの外食サービス部門、金融部門などを包括、総称した概念としてとらえられる。
この概念は、1957年にアメリカのハーバード大学のデービスJohn H. DavisとゴールドバーグRay A. Goldbergが提起したものであるが、その後、世界的に広まった。
経済社会の発展に伴って、農業や食料の分野でもさまざまに社会的分業が進展しており、農民から巨大企業に至るまでさまざまな主体(担い手)が活動している。また、それらの活動範囲も国民的な範囲から国際的な広がりをみせている。アグリビジネスの概念を用いることによって農民やそれぞれの企業の相互連関、依存関係を明らかにし、また農業、食料にかかわる包括的な産業のシステムを総体として把握することができる。さらには、社会経済全体のなかでの位置づけを明らかにすることができる。とくに、産業連関分析などの計量的な分析が可能となる。
この概念が考案された背景には、農業とその関連産業のかかわる分野の社会的な分業が深さにおいても広さにおいても極度に進展したという事情がある。
わが国においても政府をはじめとして、さまざまな機関でこの概念を使った経済計算が行われている。ちなみに、農林水産省『農業・食料関連産業の経済計算』によれば、1997年度においては、全産業の国内総生産505兆円のなかで農業・食料関連産業は約56兆円を占める。その内訳は農林漁業7.5兆円、関連製造業14.0兆円、関連流通業20.5兆円、飲食店11.9兆円、関連投資1.9兆円となっている。
[臼井 晋]
『小野寺義幸著『日本のアグリビジネス』(1982・農林統計協会)』▽『日本農業市場学会編『農産物貿易とアグリビジネス』(1996・筑波書房)』▽『今村奈良臣他著『WTO体制下の食料農業戦略』(1997・農山漁村文化協会)』▽『中野一新編『アグリビジネス論』(1998・有斐閣)』▽『John H. Davis & Ray A. GoldbergA Concept of Agribusiness (1957, Harvard Univ., Boston, USA)』
agricultureとbusinessを合成した言葉であり,元来,農業生産とそれに関連する分野での利潤追求をめざす企業活動を意味していたが,日本ではふつう,農業生産部門に農業資材供給部門や農産物加工流通部門を加え,その全体を一つの産業部門とみなしてこうよぶ。第2次大戦後のアメリカでの農業生産の企業化・大規模化は,膨大な農業資材の投入,農産物の加工度の増大,農産物流通部門の肥大等をともなった。同時に,巨大化した農業資材関連企業や農産物加工流通関連企業による農業生産への進出が,種々の形態の農業経営系列化を通してすすめられた。このように農業資材供給部門や農産物加工流通部門と農業生産部門との技術的・経済的関連が緊密化したため,農業生産を独立の産業部門とみることには無理が生じ,その全体での企業活動をアグリビジネスとよぶようになったのである。日本でも,高度成長期以降,畜産等を中心に同じ状態があらわれ,この言葉がたびたび使われるようになっている。
執筆者:吉田 忠
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