アストロH(読み)あすとろえいち(英語表記)ASTRO-H

知恵蔵 「アストロH」の解説

アストロH

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、米航空宇宙局(NASA)などと共同開発したX線天文衛星。2016年2月17日に打ち上げられ、「ひとみ」と名付けられた。X線望遠鏡と検出器を備え、X線やガンマ線を放射する高温・高エネルギーの天体観測する。今後10年間の運用で、宇宙の成り立ちを調べ、極限状態における宇宙の物理現象を解明することなどが目的
伝統的な可視光での天体観測に代わって、1962年頃からX線天文学が注目され始めた。物質は高温になるほど波長の短い光を放射する。宇宙には可視光よりも波長の短いX線を放射する高温プラズマが大量に存在する。その総量は、可視光で見える天体の総和をはるかにしのぎ、宇宙にある「見える」物質の8割を占めている。これらを「見る」ために、X線による観測が重要である。X線で観測できるのは、恒星中性子星ブラックホール、超新星残渣(ざんさ)、銀河銀河団など多岐にわたるが、X線などの波長の短い光は地球の大気に遮られて、地上へはほとんど到達しない。このため、アストロHは高度600キロメートル近い軌道上で観測を行う。日本はこれまで、79年の「はくちょう」以来、「てんま」「ぎんが」「あすか」「すざく(2005年から15年まで運用)」のX線衛星を運用してきた。アストロHはこれまでのものとは桁違いに高性能な観測機器を搭載し、これまでの観測で見えてきた宇宙の成り立ちなどについての疑問を探る目的で開発された。アストロHの課題である宇宙の成り立ちの解明では、ほとんどの銀河の中心にある巨大ブラックホールの成長過程を検証し、銀河や銀河団の進化への影響などを探る。また、中性子星や白色矮星(わいせい)など超高密度や超高磁場での光子の振る舞いなど、特異な物理現象を調べたり、巨大な質量による時空のゆがみを直接検証したりすることなどが期待されている。
アストロHはJAXAとNASAを主軸とする衛星計画で、日本を中心に、米国、オランダ、カナダなど8カ国、欧州宇宙機関(ESA)などが協力して進められてきた国際天文衛星である。「ひとみ」と命名したのは、衛星が「熱い宇宙の中を観(み)るひとみ」であることや、重要な観測対象であるブラックホールが光を吸い込む「宇宙の瞳」と呼ばれることなどに由来するという。JAXAは、全世界から観測公募を受け付けており、「熱く激しい宇宙に潜む物理法則を知りたい」という、世界の研究者の熱い期待を担うものになると自負している。

(金谷俊秀 ライター/2016年)

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知恵蔵mini 「アストロH」の解説

アストロH

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が米航空宇宙局(NASA)などと共同開発したX線天文衛星。X線を用いてブラックホールや銀河団などを観測し、宇宙の構造や進化の解明につなげることを目的とする。2008年、プロジェクトとして正式に発足した。16年2月、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケット30号機によって打ち上げられた。

(2016-2-17)

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