日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
アドニス(ギリシア神話)
あどにす
Adōnis
ギリシア神話の美少年。この人物の神話はシリアに起源し、エジプト、キプロスを経てギリシアに広まった。シリア王テイアス、またはキプロス王キニラスと、その娘ミラから生まれたといわれる。アドニスは女神アフロディテに愛され、女神の配慮で冥界(めいかい)の王妃ペルセフォネに預けられた。しかし、少年に恋をしたペルセフォネが彼を返すことを拒んだので、アフロディテはゼウスに訴えた。そこで、ゼウスはアドニスに1年の3分の1ずつを2女神のもとで、残りの3分の1を好きな所で暮らすよう命じた。しかし、それを妬(ねた)んだアフロディテの愛人アレスのたくらみによって、アドニスは狩りの最中、猪(いのしし)に突かれて死ぬ。そのとき、少年の血からはアネモネが生まれ、また白いバラは、彼を助けようとして傷ついたアフロディテの血によって赤く染まったと伝えられる。
この神話は、冬の間枯死(こし)し、春になると芽生えて繁茂する植物の生態を象徴している。シリアやキプロスでは、毎春アドニスのよみがえりを祝う祭りが行われた。
[小川正広]