アポロニオス(その他表記)Apollōnios

精選版 日本国語大辞典 「アポロニオス」の意味・読み・例文・類語

アポロニオス

  1. ( [ギリシア語] Apollōnios )[ 異表記 ] アポロニウス
  2. [ 一 ] 前三世紀のギリシアの叙事詩人。アルゴー船の伝説を題材にした長編詩「アルゴナウティカ」がある。
  3. [ 二 ] 古代ギリシアの数学者。「円錐曲線論」全八巻は古代最高の科学書の一つ。(前二六二頃━前一八〇頃

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改訂新版 世界大百科事典 「アポロニオス」の意味・わかりやすい解説

アポロニオス(ペルゲの)
Apollōnios

前3世紀の後半に生まれ,前2世紀初め没。小アジアの小都市ペルゲPergēに生まれ,〈偉大な幾何学者〉と呼ばれた。アポロニオスの名は何よりも《円錐曲線論》8巻と結びついている。アポロニオス以前の円錐曲線論は一般的なこの著作に統合され,そのため後世に伝わらなかったとさえいわれる。初めの4巻はギリシア語原文で知られ,第5~7巻はサービト・ブン・クッラによるアラビア語を介して伝わったが,最後の巻はおおかたが失われた。数多くの第8巻復元の試みがなされた。第1巻は円錐曲線の生成について述べる。アポロニオスが用いている術語は,ピタゴラス学派に帰せられる〈面積の添付〉の理論に由来している。今日の円錐曲線の名称である放物線(パラボレparabolē,添付),双曲線(ヒュペルボレhyperbolē,超過添付),楕円(エレイプシスelleipsis,不足添付)はそのなごりである。第2巻は漸近線などの基礎概念を扱い,第3巻は空間軌跡などを論ずるのに必要な諸定理,第4巻は円錐曲線の交点についての諸定理などを提示する。第5~7巻はアポロニオスの独創によるもので,法線,縮閉線など応用的部門を形成する。パッポスは《数学集成》において,アポロニオスの他の著作に言及している。それによれば,《比例切断》《面積切断》《定量切断》《接触》《平面の軌跡》《傾斜》など古代の高等数学に関する論稿を数多く書いた。それらは《円錐曲線論》とともに,数学問題に発見的に取り組むときの道具となる解析のしかたを教えるもので,実に近代ヨーロッパのコンマンディーノF.Commandino(1509-75)以降多くの数学者たちの興味を引き付けるものであった。
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アポロニオス(ロドスの)
Apollōnios

前3世紀のギリシアの学者,詩人。生没年不詳。英雄叙事詩アルゴナウティカ》4巻の作者。その他学問的著作,短編詩も書いた。生国はアレクサンドリアともナウクラティスとも言われる。前260年ころアレクサンドリア図書館長となり,前247年ころロドス島に隠退した。このため〈ロドスの人Rhodios〉と呼ばれる。長編詩と短編詩の是非をめぐる師カリマコスとの激しい文学論争は当時の有名な事件として伝えられている。《アルゴナウティカ》は長編詩を嫌う当時の傾向を押し切って書かれた。内容は,第1~2巻:プロポンティス,黒海を経てコルキスに至る航海,第3巻:金の羊毛の獲得,第4巻:ドナウ,ポー,ローヌ川,地中海,北アフリカを経て帰国,となっている。この詩は,ローマの詩人ウェルギリウス以前の叙事詩中,主題と規模の点でホメロスに比肩しうる唯一のものである。ホメロスの言語・文体を基調とし,地誌,縁起物語など,この詩人の膨大な学識を披瀝(ひれき)する場となった。このため語り口はしばしば冗長に流れ,統一性と詩的効果を欠く。第3巻では,恋にめざめる王女メデイアの姿を生き生きと描写し,恋愛という主題を初めて叙事詩の世界に導入して後世の詩人に絶大な影響を与えた。とくにウェルギリウスの叙事詩《アエネーイス》第4巻のカルタゴの女王ディドの悲恋の手本となった。
執筆者:


アポロニオス(テュアナの)
Apollōnios

1世紀の新ピタゴラス学派の哲学者。生没年不詳。小アジアのテュアナTyanaに生まれた。フィロストラトスの伝記によると,生涯を独身の苦行者として過ごし,各地を遍歴してさまざまな奇跡を行った。インドに達したとも言われている。ドミティアヌス帝から迫害されたが,千里眼によって皇帝の死を見たと伝えられている。その法力によって,当時は万能の救世主として人々の歓呼を受けた。しばしばキリストに比べられている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アポロニオス」の意味・わかりやすい解説

アポロニオス(数学者)
あぽろにおす
Apollōnios
(前262?―?)

ヘレニズム時代最大の数学者の一人で、「偉大な幾何学者」とよばれた。小アジアのペルゲに生まれ、エジプトのアレクサンドリアに出て活躍、のちに当時のギリシア文化の中心地ペルガモンを訪れている。主著は『円錐曲線論(えんすいきょくせんろん)』Kōnika8巻(最終の第8巻は失われている)で、そこでは、円錐曲線が、任意の円錐を、頂点を通らない一平面で切断したときに得られること、また切断面の角度の違いで生ずる楕円(だえん)ellipse、放物線parabola、双曲線hyperbolaの3曲線に関する相互の関係や各曲線のさまざまな性質を論じている。ちなみに楕円、放物線、双曲線の名称は、彼がそれぞれellipsis(不足する)、parabole(一致する)、hyperbole(超越する)とよんだことに由来する。これらの研究はのちにケプラーやニュートンの時代になって天体運動の解明に利用され、たとえば惑星や衛星は楕円軌道上を運動していることがわかった。また彼は、天動説での惑星の不規則運動を説明するために周転円説や離心円説を考案、これはプトレマイオスの『アルマゲスト』Almagestで利用されている。そのほか「アポロニオスの円」も有名である。一般にアポロニオスの幾何学は、形と位置の幾何学に専念したものといえよう。

[平田 寛]

『T・L・ヒース著、平田寛訳『ギリシア数学史Ⅱ』(1960/復刻版・1998・共立出版)』『平田寛著『科学の起源』(1974・岩波書店)』


アポロニオス(テュアナのアポロニオス)
あぽろにおす
Apollōnios

生没年不詳。1世紀の新ピタゴラス学派の哲学者。小アジアのカッパドキアのテュアナに生まれる。求道遍歴の哲人で、各地を旅してインドにまで渡った。また彼は奇跡を行う神秘的能力をもっていたといわれ、ネロ帝やドミティアヌス帝によって迫害されたときも、その力によって逃れたという。彼は反キリスト教勢力によって、イエスに対立する偶像としても祭り上げられたらしい。著作はほとんど残っていない。2世紀末のフィロストラトスによって彼の伝記が書かれたが、内容は疑われている。

 新ピタゴラス派は、紀元前1世紀ごろローマやアレクサンドリアを中心に、宗教的時代色を反映して興った神秘主義的哲学者の一団。ほかに、ニギディウス・フィグルスNigidius Figulus(前98ころ―前45)、ヌメニオスNoumēnios(生没年不詳)らがいる。

[田中享英 2015年1月20日]


アポロニオス(詩人)
あぽろにおす
Apollōnios
(前295ころ―?)

古代ギリシアの詩人。アレクサンドリアに生まれたが、ロドス島(ロードス島)に長く滞在したので「ロドスのアポロニオス」とよばれる。カリマコスに師事し、アレクサンドリアの大図書館の司書を務めた。ギリシア詩人の注釈や諸都市の歴史などのほか、現存の長編叙事詩『アルゴナウティカ』(アルゴ号の航海)4巻を著した。これは、イオルコス王ペリアスの命に従い、黄金の羊皮を求めたイアソンを主人公とする。イアソンはギリシアのおもな英雄たちとともに、アルゴ号に乗って黒海東岸のコルキスへ航海し、王女メディアに助けられて黄金の羊皮を手に入れた。帰途ダニューブ、ポー、ローヌ川を通り、イタリア、アフリカを経て、故郷へ戻った。第3巻は恋するメディアの心理を生き生き描き出す。航海の物語は神話や歴史への言及に満ちているが、これは単なる考証ではなく、英雄時代のできごとを現実の世界に結び付ける役割を果たしている。ローマの詩人にも影響を与えた。

[岡 道男]

『岡道男訳『世界文学全集 1 アルゴナウティカ』(1979・講談社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アポロニオス」の意味・わかりやすい解説

アポロニオス[ペルゲ]
Apōllonios of Perga

[生]前262頃.ペルゲ
[没]前190頃.アレクサンドリア
ギリシアの数学者。アレクサンドリアでユークリッドの弟子たちに学び,数学史上に名高い『円錐曲線論』 (8巻) ,その他多くの書物を著わした。これらの書物はほとんどが失われてしまったが,書名と一般的な内容は後世の学者の著作物に見出される。『円錐曲線論』は初めの4巻がギリシア語で,5~7巻までがアラビア語で残っているが,第8巻は現存しない。このなかには,彼以前の,円錐曲線に関する研究が集大成されているほか,新しく楕円,放物線,双曲線,法線に関する研究がある。数学以外の分野では,天文学と光学に業績があるとされている。また他の古代の学者によると,球面鏡や放物面鏡の性質を初めて正しく理解したのは彼であるとされている。

アポロニオス[ロドス]
Apollōnios Rhodios

[生]前295頃.アレクサンドリア
[没]前215頃.ロドス
ギリシアの叙事詩人。ホメロス以来の大英雄叙事詩『アルゴナウティカ』 Argonautika (4巻) の著者。カリマコスとの間に文学上の大論争を展開し,カリマコスの主張する短い詩に反対して長大な詩を作ったと伝えられる。文献学者としても活躍し,アレクサンドリア図書館長をつとめた。彼の詩は挿話や縁起物語や地誌的記述に満ち,ホメロスはじめ先人たちの語句を巧みに応用し,自然描写と心理描写を行い,恋愛を叙事詩の世界に導入してウェルギリウスの『アエネイス』になにがしかの影響を与えた。

アポロニオス[トラレス]
Apollōnios of Tralles

前1世紀に活躍したギリシアの彫刻家。 1456年にローマのカラカラ浴場で発見された『ファルネーゼの雄牛』群像 (ナポリ国立考古学博物館) はファルネーゼ家旧蔵のローマ時代に模作されたと考えられる大理石製の群像。この原作者がアポロニオスとイウリスコスの兄弟と伝えられている。主題はテーベ (→テーベ伝説 ) の城壁を築いたアンフィオンとゼトスの双子が母の復讐のために宿敵ディルケを雄牛に引きずらせて殺す物語。

アポロニオス[アテネ]
Apollōnios of Athens

前1世紀頃活躍したギリシアの彫刻家。ヘラクレスの像ではないかと思われる大理石彫刻の断片『ベルベデーレのトルソ』(バチカン美術館)や『拳闘士』(ローマ国立美術館)の作者として知られる。

アポロニオス[テュアナ]
Apollōnios of Tyana

1世紀初め頃の新ピタゴラス派のギリシアの賢者。フィロストラトスの書いた伝記があるが,真実のほどはわからない。彼は哲学者というよりはむしろ宗教家であり,各地を旅しさまざまの奇跡を行なったと伝えられる。

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百科事典マイペディア 「アポロニオス」の意味・わかりやすい解説

アポロニオス(ロドスの)【アポロニオス】

前3世紀のアレクサンドリアの学者,叙事詩人。隠退してロドス(ロードス)島に住んだ。英雄叙事詩《アルゴナウティカ》はホメロス以後のギリシアの叙事詩中,最高傑作とされる。いろいろな詩人の詩句を利用した技巧的でロマンティックな作品。→アルゴナウタイ伝説
→関連項目アレクサンドリア学派

アポロニオス(ペルゲの)【アポロニオス】

ギリシアの数学者。前3世紀後半に活躍。小アジアのペルゲ生れ。アレクサンドリアとペルガモンでユークリッドの後継者たちに学ぶ。《円錐曲線論》8巻を書き,3種の円錐曲線が一つの円錐の切り口として導き出されることを示し,その基本的な性質を記述。
→関連項目ヒュパティア

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世界大百科事典(旧版)内のアポロニオスの言及

【アルゴナウティカ】より

…ピンダロスは《ピュティア第4祝勝歌》でこの物語を詳細に扱っている。現存する最も有名なものはロドスのアポロニオスによる叙事詩である。これはホメロス以後の叙事詩中の最高傑作と評されたもので,とくにメデイアの恋を扱った第3巻の迫真的心理描写は圧巻である。…

【アレクサンドリア学派】より

…(1)前3世紀から前2世紀前半にかけての,エジプトのアレクサンドリアの図書館を中心とする文献学上の学統。エフェソスのゼノドトス,ロドスのアポロニオス,サモトラケのアリスタルコスらにより,主としてホメロスの作品の校訂編纂や古典諸文献の収集を行った。(2)180年ころ,パンタイノスによりアレクサンドリアに設立された一種の私塾(アレクサンドリア教校)に形成された学派。…

【アレクサンドリア図書館】より

…こうしたいわば文献学的方向に仕事が傾いていたことは,アリストテレス流のリュケイオン学風を受け継いだ証左であろう。初代館長ゼノドトスはホメロスを校訂した文献学者,第2代館長は《アルゴナウティカ》で有名な詩人ロドスのアポロニオス,第3代は子午線測定で特に有名なエラトステネスと続き,前2世紀半ばの第6代館長サモトラケのアリスタルコスまでは各代随一の学者・文人が任命されたが,以後軍人や役人が館長に任命されることもあり,学問の機関としては次第に衰退した。のちキリスト教時代に入って異教文化破壊に遭遇,389年司教テオフィロスにより焼き払われて存在を終わった。…

【ギリシア文学】より

…しかしヘレニズム期の詩人たちは山野や田園や都市の一隅を彼らの宇宙と見立てて,そこに文芸的造詣深く,情緒細かい人間理解が交わる文学の世界を築く。ロドスのアポロニオス,キュレネのカリマコスは,互いに文学観を異にしたと伝えられるけれども,共通するところもまた著しい。2人の深い学識と詩的洞察によって,森や泉,古い神々のほこらやひなびた祭祀,またそれらのいわれを伝える縁起譚が田園の神話となってよみがえる。…

【数学】より

…当時のギリシアの価値観には,そうした傾向があったのである。 ギリシアには後にも円錐曲線を扱ったペルゲのアポロニオス,正弦の表をつくり惑星の運動を記述したプトレマイオス,記号代数を用い始め,数論の問題を扱ったディオファントスなどの数学者があり,それぞれ後世に影響を及ぼしている。
[代数学の起源――アラビアの数学]
 前1世紀に帝政ローマが成立し,ギリシア文化圏も政治的にはその制圧下におかれた。…

【ウァレリウス・フラックス】より

…しかし第8巻メデア(メデイア)の兄アプシュルトゥス(アプシュルトス)がアルゴー船を追跡する場面で中断しており,以下は未発見である。アレクサンドリア期のアポロニオス(ロドスの)の同名の叙事詩を基にした作品であるが,模倣に終始せず,登場人物の性格描写,情感の表出に力を注ぎ,とくにイアソンの英雄像はアポロニオスをはるかにしのぐものとなっている。また,当時の詩人に特有の,博識を誇示し,過度の修辞を好むという悪癖をもたず,語り口は直截で,劇的である。…

※「アポロニオス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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