昆虫の脳のうしろに続いている1対のほぼ球形をした腺性内分泌器官で,ハサミトビムシ類を除く無翅(むし)昆虫にはない。種によっては癒着合一したものや側心体,前胸腺相同器官と対合して一つの器官を形成するなどの諸形態がある。側心体を含めて脳後方内分泌腺群(あるいは内分泌系)と総称される。アラタ体を初めて記載したのはリヨンP.Lyonet(1762)で,その後corpora incertaと呼ばれたこともあったが,現在はヘイモンスR.Heymonsによるcorpus allatumの名称が用いられている。発生的には頭部外胚葉が陥入,遊離して小球体となり,それが咽頭付近に移動したのち形成される。allatumの語はこの移動にちなみ,〈もたらされた〉を意味するラテン語allatusに由来する。
アラタ体は3種類の幼若ホルモンJH-Ⅰ,JH-Ⅱ,JH-Ⅲを分泌する。幼若ホルモンは,昆虫が脱皮を繰り返して成長する過程で,前胸腺から分泌されるエクジソン(脱皮ホルモン)との共同作用で脱皮後の形態を決める。幼若ホルモンの体液濃度が高ければ,幼虫へと脱皮する。完全変態をする昆虫では,幼虫が終齢になると幼若ホルモン量が減少し,蛹化(ようか)がおこる。さなぎが成虫に,また不完全変態昆虫で終齢若虫が成虫になる過程では,エクジソンが作用する時期の幼若ホルモン量は0となる。このようなときに幼若ホルモンを投与すると,さなぎは二次蛹へと脱皮する。アラタ体の分泌活性は神経および内分泌的に調節されている。脳の神経分泌細胞でアラトトロピンallatotoropin(アラタ体刺激)およびアラトヒビンallatohibin(アラタ体抑制)の2種の神経分泌物質がつくられ,アラタ体神経を経由して直接アラタ体に作用する。また神経は抑制的に作用する。このほか体液中に幼若ホルモン特異エステラーゼがあり,この活性の変動によっても幼若ホルモンの体液濃度が調節されている。成虫になるとアラタ体が再び活性化する種もあり(ゴキブリなど),卵巣と卵の成熟に関与する。このほか前胸腺の維持,幼虫休眠の誘導(ニカメイガ),幼虫や成虫の体色(タバコスズメガ,バッタ),カーストの形成(アリ)などにも関係があるが,一般的な現象ではなく,いずれも幼若ホルモンの二次的な機能であろう。
執筆者:片倉 康寿+桜井 勝
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昆虫(無翅(むし)類を除く)の脳後部に終生みられる微小な内分泌器官。原名corpora allata(複数)は「運ばれてきた小体」の意。これは、胚(はい)期にあご付近の外胚葉から陥入した1対の細胞塊が脳後部へ移動し、側心体とよばれる腺(せん)性小神経節を介して脳につながることに由来する。昆虫により、その形状、脳後部でのあり方、あるいはその構成細胞の数、形態などはさまざまに異なっている。一般には小球状のアラタ体が食道背面を走る動脈の左右に振り分けられている。脳の関与のもとにアラタ体ホルモンを分泌し、昆虫の成長、卵成熟、体色調節などいろいろな機能の調節に働く。
[竹内重夫]
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