古代インドの政治論書。《実利論》と訳される。古代のインド人は人生の3目的とされるアルタ(実利),カーマ(愛欲),ダルマ(聖法)のそれぞれについて多数の論書を著したが,これはその一つ。《アルタシャーストラ》諸文献のうち,カウティリヤ作と伝えられるものが特に名高い。この論書は実利こそ最も重要であるという立場から,王にとっての実利,すなわち領土の獲得と維持のための方策を論じたものである。全15章のうち第1~第5章は内政を扱った章で,王の義務,王に必要な教育,行政官の職務,民法,刑法,その他が論じられている。第6~第13章は外交を扱った章で,外交上のかけひきや進軍から都城攻略に至るさまざまな方策が論じられている。また第14章では敵を倒すための秘密手段が論じられ,第15章で総括がなされている。本書の特色の一つは,目的のために手段を選ばぬマキアベリ流の権謀術数が奨励されているところにある。作者と伝えられるカウティリヤ(前4世紀後半~前3世紀初め)は,マウリヤ朝初代のチャンドラグプタ王の宰相である。同書の原形が彼の手になる可能性は否定できないが,今日の形にまとめられたのは後2~3世紀とみられている。同書は20世紀初めに発見されて以来,古代インドの政治,社会,経済を知るための貴重な文献として,ひろく用いられてきた。
執筆者:山崎 元一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代インドにおける政治や経済などを中心とした学術の総称。実利論と訳される。もっとも代表的な実利論文献は、マウリヤ朝のチャンドラグプタ王に仕えた宰相カウティリヤの作といわれるもの、すなわち『カウティリヤ実利論』である。本書は全編15巻より構成され、その内容としては君主に必要な学問や教育、行政官の義務、国家秩序維持のための司法規定、官吏の服務規定、国家の構成要素、外交政策、軍事などを順次扱い、全体として国家統治に関する理念を示そうとする。一種の理想国家論ともよびうる本書の諸規定、諸規範が、現実的にどれほどの法的効力をもっていたかは疑問であるとしても、古代インド、とりわけマウリヤ朝時代の社会的、政治的状況を研究するうえで、きわめて重要な資料を提供する文献であろうことは確かである。
[矢島道彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
古代インドの政治論書。国土を獲得し維持する方策を記した書。『実利論』と訳される。前5世紀頃から同名の書が多く著されたが,マウリヤ朝チャンドラグプタの宰相カウティリヤの作といわれるものが最もよく知られている。この書は2~3世紀の間に現在の形となったといわれ,国王の修養,行政組織,司法,軍事,外交についてそれぞれ詳しく論述されていて,古代インドの政治,経済,社会,文化を知るのに重要な著作である。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…その1種は領土の獲得と統治の指導書で,行政,司法,外交,軍事の広範な問題について原理と具体的施策を示したものである。それらは今日ほとんど残っていないが,唯一の文献はマウリヤ帝国の宰相カウティリヤの著作と伝えられる《実利論(アルタシャーストラ)》で,諸論著を集大成した傑作である。他の1種はダルマ・シャーストラ(法典)とよばれ,宗教的義務や生活規範ばかりでなく,王の職務や法律を規定し,《マヌ法典》がその最も有名なものであり,《実利論》よりも後世に大きな影響を与えた。…
…政治家としてのカウティリヤは,権謀術数を巧みに用いたことで知られる。彼の著作と伝えられる政治論書《アルタシャーストラ(実利論)》は,目的(領土の獲得と維持)のためには手段を選ばぬマキアベリ的な政治哲学に立って書かれている。しかし現存の書物は後3世紀ごろに編まれたものらしい。…
※「アルタシャーストラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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