古代世界最大の規模を誇った図書館(ビブリオテケ)。エジプトのアレクサンドリアをヘレニズム時代最大の学問中心地たらしめたのは学府ムセイオンとこの図書館であった。ムセイオンとともに王宮内にあったとも,ブルケイオン区にあったとも伝えられている。創建者はプトレマイオス2世フィラデルフォス。のちやや離れたセラピス神殿(セラペイオン)に分館が設けられた。蔵書数は10万巻,50万巻,70万巻,90万巻と諸説あって定かでない。王が富財を投じて集めたが,詐欺同然に原本を巻き上げたり,船荷の本は押収してコピーで返却するよう勅令したりの手荒い話も伝わっている。〈図書館〉と常に訳されてきたが,むしろ収蔵庫で,図書閲読や研究作業はムセイオンで行われたと思われる。王から資格を許された学者や王家の教師しか利用できず,今日の図書館とは趣を異にしている。任務は図書の収集,分類,目録作りのほか,原典の校訂や注釈の作成,写本の複製,市販まで広く含んでいた。もちろんパピルス巻物で手書きである。また《七十人訳聖書》のごとく,外国図書の翻訳も行われた。こうしたいわば文献学的方向に仕事が傾いていたことは,アリストテレス流のリュケイオン学風を受け継いだ証左であろう。初代館長ゼノドトスはホメロスを校訂した文献学者,第2代館長は《アルゴナウティカ》で有名な詩人ロドスのアポロニオス,第3代は子午線測定で特に有名なエラトステネスと続き,前2世紀半ばの第6代館長サモトラケのアリスタルコスまでは各代随一の学者・文人が任命されたが,以後軍人や役人が館長に任命されることもあり,学問の機関としては次第に衰退した。のちキリスト教時代に入って異教文化破壊に遭遇,389年司教テオフィロスにより焼き払われて存在を終わった。
→アレクサンドリア学派
執筆者:金澤 良樹
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出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…サモトラケ島の生れで,ビュザンティオンのアリストファネスの弟子。アレクサンドリア図書館長,プトレマイオス7世の教育係を経て,8世の即位とともにキプロスに去り,その地で死ぬ。文法,語源学,正書法,文献批判の分野で功績が大。…
…古代ギリシア,アッティカ古喜劇の三大作家のひとり。そして,このアッティカ古喜劇という世界の文学史のなかできわめて特異な場所を占める文芸分野の完成者であり,またその死の証人でもある。彼の創作した喜劇は,20歳前の作と伝えられる《宴の人々(ダイタレス)》(前427)から,《福の神(プルトス)》(前388)に至るまで44編に及ぶと伝えられているが,そのうちの11編,すなわち《アカルナイの人々》(前425),《騎士》(前424),《雲》(前423),《蜂》(前422),《平和》(前421),《鳥》(前414),《女の平和》《テスモフォリアを祝う女たち》(ともに前411),《蛙》(前405),《女の議会》(前392),《福の神》はほぼ完全な形で残っており,そのすべては邦訳によっても読むことができる。…
…文法家フィレタスPhilētasの弟子。プトレマイオス2世によりアレクサンドリア図書館の初代館長に任ぜられ,アイトリアのアレクサンドロス,リュコフロンらとともに各地から集められた巻本を整理分類し,テキストの校訂を行う。とくにホメロス,ヘシオドス,アナクレオン,ピンダロスを研究し,ホメロスの《小辞典》や《外国語辞典》などを著す。…
…デメトリオスは,アリストテレスの文庫をモデルに,いやしくも国王の威光と名声を後世に残すには,図書館と博物館を建設するにしくはないと王に奏上したと伝えられる。ムセイオンと並んでこのアレクサンドリア図書館では学術の花が咲き,数学,天文学,文献学など多くの学問が栄え,アレクサンドリアはいわゆるヘレニズム文化の中心都市となった。後2世紀の医者ガレノスの述べるところによると,アレクサンドリアに入港するすべての船が積荷としてもつ書物のいっさいについてそのコピーをとらせ,原本をこの図書館に納めさせたという。…
…一見煩雑なこの制度は,国家が最少の出費で確実な収入を得ることができるように考え出されたものである。 文化面ではアレクサンドリアに建てられたムセイオンが,その大規模な図書館(アレクサンドリア図書館)とともにヘレニズム時代を代表する学芸の中心となり,とくに文献学,自然科学の分野に優れた学者が輩出した。しかしギリシア・ヘレニズム文化は征服者のマケドニア人,ギリシア人に影響を与えただけで,エジプト人の間にはほとんど浸透しなかった。…
※「アレクサンドリア図書館」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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