抗原と抗体が鼻の粘膜で反応して、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりを起こすのがアレルギー性鼻炎です。アレルギー反応(Ⅰ型)で起こる病気には、ほかに
原因になる物質(抗原)にはいろいろな種類があり、主なものとしてはハウスダスト(ダニなどの家のほこり)、スギ花粉、イネ科花粉、ブタクサ花粉、真菌(カビ)、ペットとして飼っているイヌやネコの毛があります。
これらの抗原は、息を吸うと鼻のなかに入り(吸入抗原)、鼻の粘膜にある抗体と出合いアレルギー反応(Ⅰ型)を起こします。抗体はIgE抗体と呼ばれ、アトピー体質のある人の体内でつくられます。このIgE抗体は、鼻の粘膜で
アトピー体質のある人が、各種吸入抗原を吸うと抗原抗体反応が鼻の粘膜で起こり、肥満細胞からヒスタミンなどの物質が放出されます。放出されたヒスタミンなどの物質は、鼻の粘膜を刺激してくしゃみ、鼻みず、鼻づまり、鼻のかゆみを起こします。したがってスギ花粉症もアレルギー性鼻炎に属します。大気汚染や食生活の変化によりアレルギー性鼻炎は増えています。
ハウスダスト(ダニなど)とスギ花粉によるアレルギー性鼻炎の患者さんが最も多くなっています。家のほこりによるアレルギー性鼻炎の特徴は、一年中くしゃみ、鼻みず、鼻づまりが続くことです(通年性アレルギー性鼻炎)。鼻づまりが強く、くしゃみや鼻みずを感じない場合や、くしゃみと鼻みずが強く、鼻づまりを感じない場合などがあります。
くしゃみは発作性に起こることが多く、一度起こると何度も続けて出ます。ハウスダストのアレルギー性鼻炎の患者さんは、しばしば気管支喘息やアトピー性皮膚炎を併せもっています。
スギ花粉症の特徴は、毎年2~4月(スギ花粉が飛ぶ季節)にかけてくしゃみ、鼻水、鼻づまりを起こします(季節性アレルギー性鼻炎)。スギ花粉が飛ばない季節に鼻症状はありません。アレルギー性結膜炎をいっしょにもっている人が多く、鼻症状以外に目のかゆみが強く起きます。
アレルギー性鼻炎の診断には、鼻みずのなかにアレルギーの細胞(
まぎらわしい病気にかぜがあります。アレルギー性鼻炎には鼻のかゆみがあり、またかぜの場合に出る黄色や緑色の
抗原が鼻のなかに入らないようにすることが症状を改善するうえで最も有効です。ハウスダスト(ダニなど)はふとん、じゅうたん、畳に多いのですが、丹念に掃除機などで取り除くことにより、鼻症状はある程度改善されます。またスギ花粉のないところに住めば症状は出なくなります。
しかし実際は、掃除してもすぐにほこりはたまりますし、スギ花粉の飛ばないところに住むことも困難です。したがって、
花粉症では、飛散する前から薬物を予防的に投与し、症状発現を遅らせ、花粉飛散期の症状を軽くする初期療法がすすめられています。
減感作療法とは、抗原からの抽出物を少量から投与する方法で、現在では根治治療に最も近く、治療終了後にも症状の改善が持続します。この点で、症状を抑える抗アレルギー薬と異なります。
原因がハウスダスト(ダニなど)の場合には、家のなかを掃除し清潔にすることが重要です。スギ花粉症の場合には、工夫されたマスクやメガネが市販されています。
これらのことを行っても鼻症状があり、生活に支障がある場合には耳鼻咽喉科を受診します。どのような症状がどの程度あるか、原因抗原の違いにより治療法が異なりますので、専門医の指示に従ってください。
野中 学
「くしゃみ、鼻みず、鼻づまり」が、慢性にまたは季節の変わりめに起きる病気です。
イエダニやカビ、花粉(スギ、カモガヤ、ブタクサ、シラカバ)などが原因と考えられており、もともとアレルギー体質の強い子どもに起きやすいと考えられています。花粉が原因の場合、眼やのどにもアレルギーが起きて、花粉症と呼ばれます。
花粉症の場合、果物を食べることによって唇がはれたり口のなかが痛くなる口腔アレルギー症候群という病気を合併する場合もあります。これは、花粉症の抗原と果物の抗原の構造がよく似ているためです。
①血液検査でアレルギーを確認すること、②鼻汁を顕微鏡でのぞいて
まず、原因となるものの排除が必要です。ダニ対策、花粉対策を行います。
薬物療法としては、鼻汁が主体の場合は抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬である塩酸フェキンフェナジン(アレグラ)、塩酸エピナスチン(アレジオン)、エバスチン(エバステル)、ロラタジン(クラリチン)、塩酸セチリジン(ジルテック)などを、鼻づまりが主体の場合はロイコトリエン拮抗薬であるプランルカスト水和物(オノン)、モンテルカストナトリウム(キプレス、シングレア)というアレルギー反応の中和薬をのんだり、鼻に直接注入(
炎症をとる効果のあるステロイド薬は、点鼻の場合(プロピオン酸フルチカゾン〈フルナーゼ〉など)、副作用は少ないといわれています。花粉症であれば、その季節の数週間前から、前述した治療を予防的に行うと有効です。
治りにくい患者さんには、家塵(ハウスダスト)や花粉を少量ずつ定期的に注射してアレルギー反応を鈍感にさせる
是松 聖悟
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
アレルギーによっておこる鼻の炎症。症状は、くしゃみ、鼻水(鼻漏)、鼻づまり(鼻閉)の三つである。アレルギー性鼻炎は「鼻アレルギー」ともいわれ、ほぼ同義であるが、鼻アレルギーは鼻腔(びくう)だけでなく、副鼻腔のアレルギーも含む表現であるので、やや広い概念である。
[高増哲也 2021年9月17日]
アレルギー性鼻炎は、通年性(季節に関係なく症状がおこる)と季節性(特定の季節に症状がおこる)に分けられる。同じ人にその両方がみられる場合もある。通年性アレルギーの抗原(アレルゲン)でもっとも多いのは、ダニである。季節性アレルギーの抗原でもっとも多いのは、花粉である。したがって季節性アレルギー性鼻炎は「花粉症」ともよばれるが、花粉症には眼(め)に症状が現れるアレルギー性結膜炎も含まれる。
体の外にあるダニや花粉の抗原が鼻腔粘膜に付着すると、体の内側のマスト細胞にある抗体(IgE抗体)と反応し、マスト細胞からヒスタミン、ロイコトリエンが遊離することで、ヒスタミンはくしゃみと水様性の鼻水、ロイコトリエンは鼻づまりを引き起こす。
[高増哲也 2021年9月17日]
診断は症状の出方などについての問診、鼻鏡を用いた鼻腔粘膜の観察、鼻水中の好酸球の観察、血液や皮膚などを用いて抗体を検査することなどによって行う。
治療には、抗原となっている物質の回避、薬物療法、免疫療法、手術がある。抗原となっている物質の回避は、ダニの場合は部屋や寝具を清潔に保つ(掃除機をかけるなど)、花粉の場合は花粉が鼻腔に入ってこないようにマスクをすることなどがある。薬物療法は、内服薬、点鼻薬が中心となるが、その他生物学的製剤の注射、漢方薬の投与などがある。内服薬としては、くしゃみ、鼻水には抗ヒスタミン薬、鼻づまりには抗ロイコトリエン薬を用いる。点鼻薬は鼻噴霧用ステロイド薬がおもに用いられ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりに効果がある。その他、点鼻用血管収縮薬は鼻づまりに即効性があるが、長期的には鼻づまりを悪化させるため、やむをえず使う場合は一時的な使用にとどめる。免疫療法は、抗原エキスを舌下または皮下に繰り返し投与して抗原に慣れさせる方法であり、原因に対する根本的な治療法となりえる。手術は粘膜を切除する方法で、レーザーを用いる方法もあるが、再発することもある。
[高増哲也 2021年9月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…また,ガレノスが150年ころにヤギ乳について同様のことを注意した記録があるし,バビロニアの《タルムード》には卵白によるアレルギー性疾患と思われるものの予防法が書かれている。1565年にイタリア人の医師ボタロは花の花粉によると考えられるアレルギー性鼻炎を記載している。1873年イギリスの医師ブラックリーCharles H.Blackleyは,アレルギー性鼻炎(当時は枯草熱と呼んでいた)を起こす季節以外でも,患者に花粉を吸入させると症状を誘発しうることや,花粉をこのような患者の皮膚に擦り込むと発赤と膨疹を起こすことを発見した。…
…アレルギー性鼻炎ともいう。遺伝子病の一種。…
※「アレルギー性鼻炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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