家庭医学館 「急性鼻炎」の解説
きゅうせいびえん【急性鼻炎 Acute Rhinitis】
[どんな病気か]
鼻は、顔の中央で外に隆起(りゅうき)している外鼻(がいび)、鼻の孔(あな)から奥に広がり、呼吸をするときの空気の通り道である鼻腔(びくう)、そして、鼻腔周辺の骨で囲まれた空洞(くうどう)である副鼻腔(ふくびくう)の3つの部分に分けられます。
鼻腔の鼻毛の生えている鼻前庭(びぜんてい)と呼ばれる部分より奥のほうや副鼻腔は、口の中やのどと同じように、湿った粘膜(ねんまく)でおおわれています。
鼻腔の粘膜は、血流が多く、呼吸する空気を温めたり、分泌物(ぶんぴつぶつ)で湿気を与えたり、また外からの異物(ほこり、花粉(かふん)、細菌など)が直接、肺に入らないように防いでいます。
鼻腔粘膜に生じた急性の炎症を急性鼻炎といいますが、鼻腔と副鼻腔はつながっているため、実際は急性鼻炎があれば副鼻腔にも多少の炎症があると考えられます。
しかし耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で診察をしたとき、副鼻腔炎の症状、所見(特徴)がなければ、単に急性鼻炎と診断されます。
[原因]
急性鼻炎はいろいろな原因で生じますが、もっとも多いのは、鼻かぜと呼ばれるもので、ライノウイルスやコロナウイルスなど、鼻部につきやすく、鼻症状の強いウイルスの感染や、細菌の二次感染により生じると考えられています。
そのほか、製粉、製材などの粉塵(ふんじん)の吸入や、アンモニア、塩素ガスなどの刺激性ガスの吸入で生じることがあります。
◎くしゃみ、鼻水、鼻づまり
[症状]
ごく初期の数時間は、鼻が乾燥した感じがあり、それに引き続き、くしゃみや水のような鼻汁(びじゅう)(鼻水)が出て、鼻がつまるようになります。鼻づまりがひどいと、においもわかりにくくなることがあります。
近年、増加している鼻(はな)アレルギー(「鼻過敏症(アレルギー性鼻炎/血管運動性鼻炎)」)でも同じような鼻症状を示すことがありますが、急性鼻炎からは除外され、別の病気として扱われます。
急性鼻炎が重くなると、頭痛と頭重感(ずじゅうかん)がおこり、発熱することがあります。くしゃみは少なくなっていきますが、細菌感染をともなうと、鼻汁が膿(うみ)のようにねばっこくなります。
咽頭炎(いんとうえん)、喉頭炎(こうとうえん)、気管支炎(きかんしえん)を合併すると、のどの痛みや声がれ、せき、たんなどの症状をともないます。
さらに、子どもでは中耳炎(ちゅうじえん)が、おとなでは耳管炎(じかんえん)や耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)を併発することがあり、耳が塞(ふさ)がった感じがして、聞こえが悪くなったり、耳が痛くなることがあります。
◎鼻アレルギーとの鑑別が必要
[検査と診断]
鼻かぜの症状にのどの痛み、発熱などをともなえば、鼻腔の粘膜の色や腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)の程度、鼻汁の状態などから、急性鼻炎を診断することは、むずかしいことではありません。
はしかや百日(ひゃくにち)ぜき、溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)(猩紅熱)などの急性感染症の初期にも急性鼻炎の症状が強く出ることがありますが、これらは特徴的な症状から区別できます。
問題となりやすいのは鼻アレルギーで、とくにスギ花粉症(かふんしょう)の場合、急性鼻炎のおこりやすい2月ごろ、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの症状が出たとき、どちらか判断に困ることがあります。
鼻腔を見てもスギ花粉症の症状の出始めは、粘膜が通常のアレルギーとは異なり、赤くなっていて、急性鼻炎と同じように見えることがあります。
目のかゆみをともなえば花粉症を、のどの痛みや発熱があれば急性鼻炎、咽頭炎(いんとうえん)を考えますが、詳しい検査をしないと、どちらかはっきりしないこともあります。
急性鼻炎としての検査はとくにありませんが、鼻汁が膿(うみ)のようになった場合は、細菌検査が必要です。
副鼻腔炎の合併の有無をみるために、鼻X線検査が行なわれます。
鼻アレルギーとの区別がはっきりしない場合、鼻汁の検査を行ない、その中に含まれる白血球(はっけっきゅう)の成分を調べたり(アレルギーでは好酸球(こうさんきゅう)があり、細菌感染の加わった急性鼻炎では好中球(こうちゅうきゅう)が多い)、皮内反応(ひないはんのう)(アレルギーの原因物質の少量を皮膚に注射して反応をみる)や血液による原因物質(抗体(こうたい)を調べる)の検査を行ないます。
◎安静と保温がたいせつ
[治療]
疲労を避け、安静、保温に努めます。症状が強いときは横になって休むようにしましょう。外気が冷たく、乾燥しているときは、マスクをして、吸気の加湿加温に努めます。室内でも、空気の適度の湿度、温度を維持するようにします。
鼻汁が多く、鼻づまりがあるときは、あまり鼻を強くかみすぎると鼻血や中耳炎を誘発することがあります。鼻をかむときは片方ずつ、適度の力でかむようにします(コラム「鼻のかみ方」)。
特効薬はないので、通常のかぜ薬を内服するのもよいと思われます。
●医師の行なう治療
鼻づまりの強い場合は、血管収縮薬(けっかんしゅうしゅくやく)の点鼻(てんび)(鼻にさして使う)を行ないますが、乳幼児にはけいれんなどの副作用があり、使用には注意が必要です。鼻汁の多いときには抗コリン薬の点鼻が有用です。内服剤もありますが、副作用として口の渇きが生じます。
二次感染を予防するためや、細菌感染が生じてしまった場合は、抗生物質や消炎剤を使用します。
発熱や痛みをともなう場合は、解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)も使用します。
鼻汁を吸引し、鼻粘膜(びねんまく)の腫脹をとり、抗生物質や消炎剤などのネブライザー(吸入)治療も行ないます。
合併症がなければ10日前後で治癒(ちゆ)しますが、ときに鼻漏(びろう)(鼻汁)が2~3週間続くことがあります。
膿のような鼻汁が多量に出るときや目の周囲が痛いときは、急性副鼻腔炎を合併している可能性があります。
耳が塞がった感じがしたり、聞こえが悪くなったり、痛みが出たようなときは、耳管狭窄症や中耳炎になっていると考えられます。
どちらも、早めに耳鼻咽喉科(じびいんこうか)を受診する必要があります。