日本大百科全書(ニッポニカ) 「アントニオーニ」の意味・わかりやすい解説
アントニオーニ
あんとにおーに
Michelangelo Antonioni
(1912―2007)
イタリアの映画監督。フェッラーラに生まれる。造形美術から演劇に関心を寄せていたが、映画批評を書き、やがて映画監督に移行した。ネオレアリズモの映画運動のなかで、優れた短編映画をつくり、シナリオを書き、1950年に第1回監督作品『ある恋の記録』をつくった。ネオレアリズモのドキュメンタリー的描写と、男女間(とくに女性)の愛の研究が、処女作以来のアントニオーニ独自の芸術境であった。中産階級の女性の間に育った彼は、その環境の内部的生活を知的に分析する意義を自覚していた。『さすらい』(1957)は彼の名を高めた佳作だが、これは労働者を主人公にしているので別格として、次の『情事』(1960)、『夜』(1960)、『太陽はひとりぼっち』(1962)のいわゆる「愛の三部作」は、愛の不毛を冷徹な知性と繊細な共感をもって写し出した代表作で、心理的象徴としての外景の描き方がとくに優れていた。色彩映画の第一作『赤い砂漠』(1964)は彼が親しむ主題の色彩化に成功していた。その後はイギリス、アメリカなど国際的に活躍を続け、『欲望』(1966)、『砂丘』(1968)、『さすらいの二人』(1974)、『女の身元確認』(1982)、『ある女の存在証明』(1982)、『愛のめぐりあい』(1995)などがある。
資料 監督作品一覧
ある恋の記録 Cronaca di un amore(1950)
愛と殺意 Cronaca di un amore (1950)
街の恋 L'amore in città(1953)
女ともだち Le amiche(1956)
さすらい Il grido(1957)
情事 L'avventura(1960)
夜 La notte(1960)
太陽はひとりぼっち L'eclisse(1962)
赤い砂漠 Il deserto rosso(1964)
欲望 Blow-up(1966)
砂丘 Zabriskie point(1968)
中国 Chung Kuo - Cina (1972)
さすらいの二人 Professione : reporter(1974)
ある女の存在証明 Identificazione di una donna(1982)
愛のめぐりあい[ビム・ベンダースとの共同監督] Al di là delle nuvole(1995)
ミケランジェロのまさざし Lo sguardo di Michelangelo(2004)
愛の神、エロス Eros(2004)
『ピエール・ルプロオン著、矢島翠訳『現代のシネマ アントニオーニ』(1978・三一書房)』▽『石原郁子著『アントニオーニの誘惑――事物と女たち』(1992・筑摩書房)』▽『ヴィム・ヴェンダース著、池田信雄・武村知子訳『「愛のめぐりあい」撮影日記――アントニオーニとの時間』(1996・キネマ旬報社)』▽『C・カルロ他編、西村安弘訳『アントニオーニ 存在の証明――映画作家が自身を語る』(1999・フィルムアート社)』