デンマークの言語学者、英語学者。コペンハーゲン大学教授(1893~1925)、デンマーク王立学士院会員。イギリスのスウィートに私淑してその学風を継ぎ、実証的でかつ思弁にも優れ、第二次世界大戦前の学界にあって国際的に活躍し、当時英語学の第一人者であるとの評を得、日本の学界にも大きな影響を及ぼした。音声学と近代英語の研究に精力を集中し、言語変化は一般に、より規則的で、より単純な方向に進むから進化的であるとし、なかでも英語がもっとも進化した言語の一つである旨を述べた。その説には19世紀の進化論の影響もみられるが、総じて目的論的合理主義であるといえよう。主著は『近代英文典』7巻(1909~1949)で、理論と実証の総合。なお、国際語運動にも関心を示し、自らもノビアルNovialという人工言語を考案したが、まったく流行しなかった。近時彼の業績は再評価に入っている。
[三宅 鴻 2018年6月19日]
『新村出述『イェスペルセン氏言語進歩論』(1901・東京専門学校出版部)』▽『イェスペルセン著、中島文雄訳『エッセンシャル英文法』(1962・千城書房)』▽『オットー・イェスペルセン著、宮畑一郎訳『統語論――理論と分析』(1980・南雲堂)』▽『O・イェスペルセン著、三宅鴻訳『言語――その本質・発達・起源』上(岩波文庫)』▽『イェスペルセン著、安藤貞雄訳『文法の原理』上中下(岩波文庫)』
デンマークの英語学者,言語学者。法律学からロマンス語研究に転じ,のちイギリスの言語学者H.スウィートの影響をうけ,英語学を専攻。1893-1925年,母校コペンハーゲン大学の英語・英文学の教授をつとめた。1899年よりデンマーク王立学士会員。関心の幅は広く,音声学,英文法,文法理論,言語学,外国語教授法,国際語に及ぶ。主著の一つ《言語--その本質・発達・起源》(1922)は,英語が他言語に比べていっそう規則的で簡便であるからもっともすぐれている,と論じ,言語の起源は〈歌うこと〉からであるとした。大著《近代英文典A Modern English Grammar》7巻(1909-49)は,第1巻が音声と綴字による,また第2~7巻は文法による近代英語史で,広範囲な歴史上のデータに基づいて文法を合理的に整理した英文法史上画期的な著作である。これは長い間,英文法書のスタンダードとして学校文法に大きな影響を与えている。また,《文法の原理Philosophy of Grammar》(1924)は文法の理論的面を扱っている。彼は記述主導型の伝統的言語学から,理論主導型の新言語学へと移る過渡期の橋渡しをした学者で,その理論は特に《統語論--理論と分析Analytic Syntax》(1937)で展開されている。なお,1928年にはノビアルNovialと呼ぶ人工言語を考案し,新しい国際語(国際共通語)として提唱している。
執筆者:三宅 鴻
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[非字母的表記]
音声の分析的表記としては次の3種がある。(1)非字母的記号 デンマークの音声学者O.イェスペルセンはある音声を発する場合に見られるすべての発音器官の動きを記述しようとしている。彼は上顎に付着する上位調音器官にラテン文字を振り当て,bで上唇,dで上歯の先,fで歯茎を表し,下顎に付着する下位器官にはギリシア文字を用い,αで下唇,βで舌先,γで舌面,δで軟口蓋,εで声帯を表すこととし,上位と下位の記号の間に数字をはさんで両者の接近の度合を示すことにしている。…
…さらに,そうした伝統的なラテン語文法にならって,やがて当代のヨーロッパ諸言語の文法の研究も徐々に行われるようになり,これらを〈伝統文法〉と呼んでいる。たとえば英語では,19世紀末にH.スウィートが,また20世紀前半にO.イェスペルセンが,いずれも〈伝統文法〉の集大成ともいうべき業績を残している。一方,18世紀末にヨーロッパ諸言語とサンスクリットなどの類似が指摘されると,19世紀には,それら諸言語――一般的な言い方をすれば,歴史的に共通の祖にさかのぼると考えられる諸言語――を相互に比較してその歴史的な関係を究明しようとする〈比較文法〉が興った(〈比較文法〉という語は前掲の〈対照文法〉とは異なり,このように限定的な意味で用いる)。…
※「イェスペルセン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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