改訂新版 世界大百科事典 「イワシクジラ」の意味・わかりやすい解説
イワシクジラ (鰯鯨)
sei whale
pollack whale
Balaenoptera borealis
ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ科の哺乳類。世界中の温帯から寒帯に分布する。体長14~15mで,雌は雄より1mほど大きい。体は細長く背びれは高く,体長の3~4%,胸部腹面に60~65本のうねがあるが,その後端はへそに達しない。ひげ板は片側300枚前後で,黒色で細長く,その舌側の縁から生ずる剛毛は白い。体色は背面は青黒色,腹面は白色であるが,左右の肩のあたりから黒色域が腹面の中央部まで延びているが,ナガスクジラではこれを欠く。胸びれと尾びれの下面もナガスクジラ(白色)と異なり灰色。北半球では交尾盛期は12~1月にあり,約11ヵ月の妊娠の後4.4mの子を出産する。1年以内に離乳し,2年に1回出産する。餌はオキアミなどの甲殻類やイワシ,サンマなどの群集性の小魚。和名,英名とも食べ物によるといわれる。性成熟年齢はかつて11歳前後であったが,競争種であるナガスクジラあるいは自身の個体数の減少に伴い餌料供給が増えたため,成長が早くなり7~8歳に低下した。捕鯨業による資源減少がいちじるしく,ナガスクジラ科の中でも見ることの希な種である。紀伊半島から北九州方面にかけて明治時代まで網取式捕鯨が行われていたが,ここではイワシクジラは希であり,現在のニタリクジラB.edeniを〈いわしくじら〉とか〈かつをくじら〉と呼んでいた。ノルウェー式捕鯨が東北地方に広がるにつれて,その名前がB.borealisに使われてしまったらしい。
執筆者:粕谷 俊雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報