フィンランド生まれの社会学者、人類学者。フィンランド大学で最初、哲学を学んだが、のちに社会学、人類学に学問的関心を移した。ヘルシンキ大学の社会学教授を経て、イギリスに渡り、ロンドン大学社会学教授の職につき、晩年までの研究生活をそこで過ごした。イギリスに移る決意をしたのはダーウィンの著書の影響によるものと考えられている。代表的著書としては『人類婚姻史』The History of Human Marriage(1891)がある。本書で豊富な資料を縦横に駆使し、帰約的方法を用いて、人類社会の家族史・婚姻史を再構成しており、L・H・モルガンらの進化主義者が主張する原始乱婚説や母系氏族先行説に反対する立場を明らかにした。そのほかの著作としては『道徳理念の起源と発展』The Origin and Development of the Moral Ideas(1906、1908)が有名である。
[野口武徳 2018年11月19日]
フィンランドの人類学者,社会学者。フィンランド大学(現,ヘルシンキ大学)で1890年に学位を取り,母校のほかロンドン大学の教授を務め,B.マリノフスキー,M.ギンズバーグなどもその教えを受けた。彼の業績には,倫理の相対性を説いた道徳哲学もあるが,むしろ婚姻の比較研究が有名である。L.H.モーガンら19世紀の進化主義者の乱婚説や母系先行説を退け,類人猿の観察などから,原始一夫一婦制を主張した。このように現代からみても穏当な見方をとるにいたったのは,豊富な文献資料の利用のほか,宣教師などにアンケートを依頼したり,みずからもモロッコで9年間にわたる調査を行うなど,19世紀の多くの人類学者が安楽椅子に座りながら学説を考え出したのとは異なる実証的志向をもっていたためと考えられる。彼の説のうち,とくにインセスト(近親相姦)回避の主因を,幼時に馴れ親しんだ親族間で性的感情が起こらないことに求めた仮説は,現在の人類学でも再評価されている。
執筆者:末成 道男
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