エチゼンクラゲ(読み)えちぜんくらげ(その他表記)Nemopilema nomurai

知恵蔵 「エチゼンクラゲ」の解説

エチゼンクラゲ

傘が2メートル、重さが200キロにも及ぶ世界最大級のクラゲ。分類は根口クラゲ目ビゼンクラゲ科エチゼンクラゲ属エチゼンクラゲ。1922年、東京帝国大学の水産生物研究者、岸上鎌吉博士が福井県高浜町で採集された標本新種として命名した。58年、95年にも大量発生したが、2002年からはほぼ毎年大量発生し、漁業に深刻な被害を与えている。
エチゼンクラゲの故郷は、中国本土と朝鮮半島に囲まれた渤海黄海、北部東シナ海沿岸部。受精卵からかえった幼生が冬に岩場につき、2ミリほどのポリプになる。翌年初夏、水温上昇でポリプからクラゲが発生、対馬海流に乗って日本海に運ばれる。秋に一部のクラゲが津軽海峡を通過して太平洋側へ抜け、房総半島に達し、冬に日本近海で死滅する。
09年には、クラゲが紀伊半島まで南下して、魚網を破る、網の中の魚を傷つける、網にかかった重みで船が転覆するなど、20道府県に被害が拡大したため、全国漁業協同組合連合会は、水揚げ高減少への所得補償や駆除作業の費用負担の拡大などを国へ要望した。
駆除方法は2隻の漁船が網を海中に入れて引き回し、クラゲを切断するなど。他にも天敵ウマヅラハギを使った駆除実験が行われている。
エチゼンクラゲ増加の原因としては、地球温暖化の影響で海水温が上がり、クラゲが育ちやすくなったことや、中国沿岸部の工業化で、海水が富栄養化して餌の動物プランクトンが増えたこと、乱獲による小魚や大型魚の稚魚の減少で同じ餌を食べる競争相手が減ったことなどが推測されている。05年10月、神奈川県にある新江ノ島水族館が、世界初のエチゼンクラゲの水槽内での繁殖に成功。広島大学大学院生物圏科学研究科の上真一教授を中心に、クラゲの発生予測や制御の新技術開発も始まった。なお、干しクラゲやアイスクリームなどの食料、関節症の治療薬、砂漠緑化のための肥料など、エチゼンクラゲを「水産資源」として有効活用する試みも進んでいる。

(島村由花  コラムニスト / 2009年)

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改訂新版 世界大百科事典 「エチゼンクラゲ」の意味・わかりやすい解説

エチゼンクラゲ
Stomolophus meleagris(=Stomolophus nomurai

ハチクラゲ綱ビゼンクラゲ科の腔腸動物(刺胞動物)。古くから越前で知られていたクラゲなのでこの名がある。中国北部沿岸,朝鮮半島南岸,日本海,北アメリカ南部西岸,メキシコ湾,ブラジル沿岸に分布する。かさは半球状で,寒天質が非常に厚くて硬い。大きなものでは直径1m以上,重量150kgに達するものもある。全体は淡褐色で,縁はとくに色が濃く,120の縁弁がある。口腕は8個あって短く,おのおのが2翼に分かれ,多くの小触手と糸状付属器をもつ。日本近海では夏に発生する。発生場所は長江(揚子江)河口外海,対馬海峡,朝鮮半島南西岸などが考えられ,対馬暖流に乗って北海道付近まで漂流し,ときには津軽海峡を通って太平洋に入り,三陸沖に南下する。ビゼンクラゲとともに食用にされ,またタイやカワハギ類の釣餌にも用いられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エチゼンクラゲ」の意味・わかりやすい解説

エチゼンクラゲ
Nemopilema nomurai

刺胞動物門鉢虫綱根口クラゲ目エチゼンクラゲ科。傘は褐色の半球状で,直径 2m,重さ 150kgにもなる。8本の口腕は短く,おのおのに多数の糸状突起がついている。中国,朝鮮半島沿岸に産し,繁殖地の黄海およびポー(渤)海から対馬暖流(→暖流)に乗って北海道西岸まで日本海を北上する。ときに,津軽海峡を経て東北地方太平洋岸を南下する。地方によっては食用に供する。刺胞毒(→刺胞)も強めであるが,むしろ定置網に大量に入ってしまい網が破れるなどの漁業被害が大きい。(→クラゲ刺胞動物鉢虫類無脊椎動物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エチゼンクラゲ」の意味・わかりやすい解説

エチゼンクラゲ
えちぜんくらげ / 越前水母
[学] Stomolophus meleagris

腔腸(こうちょう)動物門ハチクラゲ綱根口(ねくち)クラゲ目エチゼンクラゲ科のクラゲ。きわめて大形となり、傘の直径1メートル、重さ150キログラムにも達することがある。傘は半球状で、寒天質はきわめて堅く、また厚い。傘縁は約120の縁弁に分かれ、各8分区ごとに1個ずつ感覚器がみられる。8個の口腕は短く、おのおの2翼に分かれており、8個の肩板があり、これらの口腕や肩板には多くの小触手や糸状付属物がみられる。中国北部および朝鮮半島南部沿岸から日本海にかけて分布し、ときには北海道沿岸にまで達する。食用にするクラゲの多くはビゼンクラゲであるが、本種もビゼンクラゲと混獲されて食用とされることがある。また、タイの釣り餌(え)として用いられることがある。

[山田真弓]


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百科事典マイペディア 「エチゼンクラゲ」の意味・わかりやすい解説

エチゼンクラゲ

ハチクラゲ類ビゼンクラゲ科の腔腸(こうちょう)動物。かさは半球状で直径1m,重さ150kgになるものもある。寒天質は厚くてかたい。淡褐色でかさの縁は褐色。朝鮮半島の南岸や中国の北部沿岸,北アメリカ南部西岸,メキシコ湾,ブラジル沿岸に産し,海流にのって夏には日本海を北上,北海道まで分布する。タイやカワハギの釣餌に用い,食用にもする。
→関連項目クラゲ(水母)プランクトン

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栄養・生化学辞典 「エチゼンクラゲ」の解説

エチゼンクラゲ

 [Stomolophus nomurai].針虫綱ビゼンクラゲ目エチゼンクラゲ属のクラゲ.食用にされる.

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世界大百科事典(旧版)内のエチゼンクラゲの言及

【クラゲ(水母)】より

…口の周囲からは4~8本の腕のような口腕がでていて,ときにはそれらが2~3翼のひだに分かれ複雑になっている。根口(ねぐち)クラゲ類のタコクラゲやエチゼンクラゲ(イラスト)では8本の口腕に多くの小さい触手や棒状の付属物をつけ,中央の口がなく口腕にある直径1mm以下の小さな吸口からプランクトンを吸い込んでたべる。ジュウモンジクラゲ類の体はポリプの先にクラゲがついた形で,ふつうのクラゲのように浮遊せずに海藻や他のものに付着して生活する。…

※「エチゼンクラゲ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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