ニシン目カタクチイワシ科エツ属の魚。体は著しく側扁し尾部にいくにつれ体高が漸減し,しりびれの基底がはなはだしく長く尾びれと連なるように見える。胸びれ上部の6軟条だけが糸状に長くのびている。頭の前端部はまるみを帯び,上あごを形づくる骨がえらぶたの後方まで長くのびている。体は銀白色でうろこは大型ではがれやすい。体長20cm以上になる。日本では有明海奥部だけに生息し,筑後川,矢部川におもに分布するが,朝鮮半島や中国にも同属が分布する。鰓耙(さいは)は細長く密生し,餌はアキアミを主にその他の浮遊性甲殻類も摂食するが,産卵時には餌をとらない。冬は沖合の水深8~10m付近に生息する。産卵に際し4月下旬ごろに河口付近に集まり,6~8月にかけて河口から15kmほど上流を中心に産卵を行いおおいに疲弊して川を下る。卵は直径0.9~1.1mmで潮の干満により上・下流方向に分散する。産卵前のものは筑後川のエツ料理として名高く賞味されるが,海に下るエツはシリガレエツといって味はおおいにおちる。
執筆者:松下 克己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
硬骨魚綱ニシン目カタクチイワシ科に属する海水魚。南日本、朝鮮半島、東シナ海に分布し、日本では九州の有明(ありあけ)海の湾奥部と、これに注ぐ河川の下流部に生息する。体は著しく側扁(そくへん)し、尾部は細長く、全長20~30センチメートルになる。外形はアシの葉に似ており、朝鮮半島では「葦魚」、中国では「刀魚」と書く。体の腹縁は鋭く、ここに稜鱗(りょうりん)を備え、このほかの部位の鱗(うろこ)は大形の円鱗で、剥(は)がれやすく、上あごの前骨は長くて鰓蓋(さいがい)の後方に達している。体の背側は暗青色、側面および腹面は銀白色である。成魚は6~7月ごろに主として九州の筑後(ちくご)川を遡上(そじょう)し、河口から約15キロメートル上流の城島(じょうじま)付近を中心に産卵が行われる。卵は直径1ミリメートルぐらいで、川底に沈下する。しかし、粘着力がないので潮の干満の影響を受け、川の流れとともに上げ下げを繰り返し、すこしずつ川を下りながら孵化(ふか)する。成魚の漁獲はこの地方の風物詩で、流し網や刺網でとる。これが季節の魚として賞味される筑後川名物のエツ料理で、てんぷら、塩焼き、煮つけ、刺身などにされ美味である。筑後川の産地には、弘法(こうぼう)大師が諸国行脚(あんぎゃ)の途中、川を渡れずに困っていたとき、親切な漁師に助けられ、そのお礼に、岸辺のアシをむしって川に投げたらエツに変身したという伝説が残っている。
[浅見忠彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…また周囲の小国との戦争を通じて,奴隷交易の一翼をも担っていた。 ヌペの王はエツEtsuと呼ばれるが,その起源は1530年ころとされている。彼らの口頭伝承によれば,それ以前のヌペは統一されておらず,弱少で,南方のイガラの王国に従属し,その朝貢国になっていた。…
…沿岸では日本一の生産量を誇るノリ養殖のほか,モガイ,アサリ,アゲマキ,タイラギなどの魚介類の採取が多く,はね板(ガタスキー)を利用しての珍奇なムツゴロウとりは,干潟の代表的風物詩である。このほか特産のウミタケ,生きている化石オオシャミセンガイ,有明海のみにいる美しい〈エツ〉(カタクチイワシ科の魚)など貴重な生物が生息している。また大牟田付近の海底には,三池炭田の炭脈がのび,良質の石炭が掘り出されていたが,1997年3月閉山した。…
※「えっ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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