エフォロス(英語表記)ephoros

改訂新版 世界大百科事典 「エフォロス」の意味・わかりやすい解説

エフォロス
ephoros

ドリス人のポリス,とくにスパルタにおける重要な役人をいい,〈監督官〉と訳す。複数形はエフォロイephoroi。スパルタでは,おそらく第1次メッセニア戦争中に設けられ,毎年5人が貴族の中から選ばれて,王権を制約する役に任じ,5人中の筆頭エフォロスの名をもって,その年を呼んだ。前556年の筆頭エフォロス,キロンChilōnのとき,たぶん国制の民主化とともに,エフォロイは市民の中から民会で選ばれるようになり,市民全体を代表するスパルタの最高役人団になった。王に対しては,王が法を守る限り,王を支持するとの誓いを毎月とりかわし,王同士の争いを調停し,エフォロイのもとに王の出頭を強制し,長老会に王を告発することもでき,出陣する王には2人のエフォロイが同行した。また民会と長老会を召集して,その議長となり,他の役人を免職,訴追することができ,軍隊召集権,外交交渉権を持ち,民事裁判をつかさどり,青少年の訓練を含むリュクルゴス制度の維持に当たり,ペリオイコイとヘイロータイ行動を監視し,とくにヘイロータイには,毎年新任のさい宣戦布告を行った。エフォロイはこのように絶大な権能を持ったが,再任は許されず,後任のエフォロイに執務報告を提出する義務があった。クレオメネス3世により一時(前227-前221)廃止されたのち復活,少なくとも後200年まで存在したが,前200年前後からはかつての力を失ったらしい。
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エフォロス
Ephoros
生没年:前405ころ-前330

古代ギリシア歴史家小アジアのキュメの出身イソクラテス弟子との伝えがある。主著は30巻からなる《歴史》(最後の巻は息子デモフィロスの執筆)で,ヘラクレス末裔の帰還から前4世紀半ばまでが対象。年代記的ではなく主題ごとに叙述されており,多くの歴史書を参照して書かれている。彼の著作は現存しないが,ディオドロスらの歴史家に利用され,その引用が残されている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エフォロス」の意味・わかりやすい解説

エフォロス
Ephoros

[生]前405頃.アイオリス,キュメ
[没]前330
古代ギリシアの歴史家。イソクラテスの弟子といわれる。ヘラクレスの子孫のペロポネソス帰還からマケドニアのフィリッポス2世のペリントス包囲 (前 340) にいたる『世界史』 Historiai (30巻) を著述した。歴史を数巻に分冊し,各巻に序をつけた最初の歴史家で,年代記というより,主題別に歴史を扱った。彼の著作はのちのディオドロス・シケロスストラボンによって大いに利用され,プルタルコスらも史料として使用した。

エフォロス
ephoros

古代ギリシア,ドーリス系国家の監督官。スパルタのエフォロスたちが特に有名で,毎年5人が市民によって選ばれた。行政,司法,道徳教育面での権限を合せもち,前5世紀までには国家の最高役職となった。2人の王や諸役人の行動を監督し,また民会 (エクレシア ) や長老会の運営も彼らの権限であった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エフォロス」の意味・わかりやすい解説

エフォロス
えふぉろす
Ephoros
(前405ころ―前330ころ)

古代ギリシアの歴史家。小アジア西岸キメの生まれ。主著は『歴史』30巻で、ヘラクレスの子孫のペロポネソス半島への帰還物語から、紀元前341年のことまでを扱っている。ただし、今日残るのは断片のみで、また第30巻は息子のデモフィロスの作。史料批判の精神に欠けるが、クセノフォンに次ぐ前4世紀の重要なギリシアの歴史家で、その影響はローマ帝政期にまで及んだ。

[清永昭次]

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世界大百科事典(旧版)内のエフォロスの言及

【スパルタ】より

…前7世紀末から断続的に続いた対アルカディア戦は,平民層が重装歩兵密集隊の中核としての地歩を固め,その政治的権利を拡大する過程でもあった。前556年の筆頭エフォロスのキロンは,エフォロイ(エフォロスの複数形)の権限を強化して古典期の国制の基礎を据えた。少し前テゲアを破ったときに,スパルタは従来の併合政策を変更して同盟を結んだ。…

※「エフォロス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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