エマージング・ウイルス(読み)エマージングウイルス

百科事典マイペディアの解説

エマージング・ウイルス

突如として出現してくるウイルスのこと。1980年の世界保健機関(WHO)による痘瘡(天然痘)根絶宣言以来,伝染病(感染症)に対する人類の警戒心は一気に解かれ,残るポリオ,麻疹(はしか)などの根絶計画も確実に進んでいるかにみえた。しかし,1980年代半ばのエイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の出現・大流行に端を発し,1989年にはフィリピンから米国に輸入されたカニクイザルがエボラウイルスにより死亡する(人間には4名感染したものの,発病者はなし)など,新たなウイルスの出現が続々と報告されるようになった。このエボラウイルスをテーマに,リチャード・プレストンによって小説化された《ホットゾーン》はベストセラーになり,映画《アウトブレイク》も大ヒットとなった。 その後も,1993年5月には,米国のニューメキシコ,アリゾナ,ユタ,コロラドの4州が接する地域でハンタウイルスによる肺炎が発生,1994年にはオーストラリアでモービリウイルスの感染,1995年5月にはザイール(現コンゴ民主共和国)でエボラ出血熱が大流行した。 こうしてふたたびエマージング・ウイルスは注目を集めるようになり,1993年の世界保健機関と全米科学連合との会議をきっかけに,その対策が国際的に検討されはじめている。 エマージング・ウイルスは,そのほとんどが野生動物を自然宿主とし,しかも多くの場合,野生動物では発症せず,人間で病気を起こす。また,人から人への感染は必ず起きるというわけではない。獣医学の領域とも深い関係を持つことから,広い視野での研究・対策が課題となっている。→ウイルス病

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

エマージング・ウイルス
えまーじんぐういるす
emerging virus

従来あまりみられなかったウイルス感染症が突然出現(エマージング)すること。近年、エボラ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱などの熱帯病やエイズ、腎症候性出血熱などが次々に報告されるようになって、この呼び名が定着した。場合によっては牛海綿状脳症(BSE)なども含まれる。
 代表例であるエボラ出血熱の原因ウイルスは、1977年ザイール(現コンゴ民主共和国)のエボラ川近くの患者から見つかった。高熱と頭痛から始まり、吐血や下血、口内など全身から出血し、死亡率はきわめて高い。エイズ同様に血液を介して感染し、95年にはザイールで大流行した。森林の動物とともに平和共存していたウイルスが、開発がすすむとともに人間に接触、感染力をもったと推定され、宿主動物探しが国際機関などによって行われている。マールブルグ熱はドイツの研究者が輸入したアフリカミドリザルから感染、エイズもアフリカのサルのウイルス由来との説が強い。BSEは正確にはウイルス病ではなく、感染性タンパク質のプリオンが原因と考えられているが、これも感染したヒツジの内臓などをウシの飼料にしたため、ウシの肉などからさらに人間にも感染したと疑われている。ウイルスは本来、感染する動物や発病する動物が限られているのが特徴だが、これらは行きすぎた森林開発などによる生態系の急激な変化に対応、人間社会に出現してきたもので、国際的な監視体制の強化、治療法の発見のほか、生態系や自然保護などにも配慮する必要性が指摘されている。[田辺 功]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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