20世紀イタリア詩の主流を概括する呼称。錬金術主義と訳される。ただし,その適用に大別して二つの方向性がある。第一は,19世紀から20世紀初めにかけての三大詩人,カルドゥッチ,パスコリ,ダヌンツィオに代表される旧来の修辞法と鋭く対立し,新たに自由な韻律の口語詩をあらわしたウンガレッティ,モンターレ,クアジモドらの純粋詩を総称する。これは批評家アンチェスキの《20世紀イタリアの詩法》(1953)に見られるごとく,イタリアの純粋詩〈エルメティズモ〉を,象徴主義とりわけマラルメからバレリーにかけてのフランス現代詩の流れと重ね合わせようとする態度で,より広く支持されている。したがって,20世紀初頭の〈クレプスコラーリ〉や〈未来派〉の詩人たちを除き,たとえば〈ボーチェ派〉のカンパーナや〈ロンダ派〉のカルダレリたちも組みこみ,〈エルメティズモ〉の本流にウンガレッティ,モンターレ,クアジモドの3者を据え,純粋詩の後続世代としてガット,シニズガリ,ルーツィ,ビゴンジャーリ,セレーニ,デ・リーベロらの詩的活動を含めるのが一般になっている。
しかしながら,このような解釈と方向づけは,ファシズムの時代に沈黙し,社会的責務を果たしえなかったイタリア現代詩の亀裂を,故意に隠蔽するものであるとして,クアジモドが激しく異議を唱えた。彼が主張するように,〈エルメティズモ〉の詩が初めて本格的に論じられたのは文学史家フローラの評論《ヘルメスの詩》(1936)においてであった。このなかで,フローラはウンガレッティの句読点なしの短詩型をもっぱら〈断片主義〉の詩法ととらえ,〈エルメティズモ〉の本流をむしろクアジモドの詩作のほうに認めようとした。このような第二の方向性に沿った20世紀イタリア詩の解釈は,より若い世代の前衛詩人たち,たとえばサングイネーティによって支持された。サングイネーティは《20世紀詩選集》(1969)のなかで,サーバ,カルダレリ,ウンガレッティ,モンターレを〈新しい抒情詩人〉にまとめ,これと一線を画してクアジモド以下,ガット,シニズガリ,ペンナ,デ・リーベロ,ルーツィ,セレーニ,カプローニ,エルバを〈エルメティズモの詩人〉とした。
その後,クアジモド,ウンガレッティ,モンターレがあいついで死去し,〈エルメティズモ〉論も,より若い世代の評論家たちによって著されるようになった。とりわけ,ラマーの《エルメティズモ論》(1969)に見られるごとく,核心は1930-45年の詩人たちの活動に当てられることになった。と同時に,詩法の観点から,《カンポ・ディ・マルテ》《プリマート》《ソラーリア》等の雑誌の果たした役割が解明されねばならなくなった。そして散文における〈ネオレアリズモ〉と並行させながら,詩における〈エルメティズモ〉は,詩人の社会的責務と反ファシズムの詩法の両面から,今後もいっそうの究明が望まれている。
執筆者:河島 英昭
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イタリア第一次世界大戦後、イタリア詩の主流を占めた詩派。エルメティズモとは錬金術の意。フランスの象徴主義、とくにマラルメとバレリーの影響を強く受け、詩から歴史や政治などの非詩的要素を排除し、ことばの伝達機能を極限まで取り除いて、ことばが本来備えているイメージの喚起力を詩のなかに取り戻そうとする純粋詩を目ざした。1930年代にフィレンツェで発行された『フロンテスピーツィオ』『カンポ・ディ・マルテ』などの雑誌に拠(よ)って多くの詩人たちが登場した。とくに詩集『時間の感覚』(1933)でこの詩法を確立したウンガレッティや、クアジーモド、シニズガッリ、ルーツィが代表的詩人である。また、批評家ボーはこの詩派の理論的支柱となった。しかし第二次世界大戦後、ファシズムや戦争に対する消極的な姿勢が、過酷な抵抗運動を担った詩人や作家たちの厳しい批判を浴びるところとなった。
[川名公平]
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[20世紀のイタリア文学]
20世紀初頭のイタリア文学は,まず詩においては,G.カルドゥッチ,G.パスコリ,そしてG.ダンヌンツィオの3巨匠が絢爛たる伝統的修辞法の詩編を展開したあと,〈クレプスコラーリ(黄昏派)〉の詩人たちが低くつぶやくような詩を綴った。ついで〈未来派〉の極端な実験詩のあとをうけ,フランス象徴主義の影響を強く受けながら,〈エルメティズモ〉の詩人たちが輩出した。U.サーバ,G.ウンガレッティ,E.モンターレ,S.クアジモドの4人において,20世紀イタリア抒情詩は最高の水準に達したのである。…
※「エルメティズモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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