翻訳|Jeremiah
古代イスラエルの代表的預言者の一人。その預言の多くは詩型をとり,《エレミヤ書》に残されている。ヘブライ語ではイルメヤフーまたはイルメヤ(〈ヤハウェ,高めたまわんことを〉の意)。前650年ころ,ユダ王国の首都エルサレムの近郊アナトテのレビ人祭司の子として生まれ育ち,モーセ以来の宗教的伝統に親しんだと思われる。当時ユダ王国はオリエントの最強国アッシリアの属国として政治的にも宗教的にもモーセ宗教的伝統と相反する在り方をし,カナン的豊穣宗教の体系を受容し,あるいはこれと伝統的ヤハウェ宗教とを習合させた。エレミヤは前626年に預言者として使命に目覚めたとされるが,それはアッシリアの崩壊,メディア・新バビロニアの勃興,スキタイ族のパレスティナ来襲という世界の大変動期と一致する。この期をとらえ,ユダ王国ではヨシヤ王の一党が民族主義的復古運動をくりひろげ,《申命記》的宗教改革運動が推進されたが,エレミヤは深く民族の底にある背きの罪を自覚し,それを神の動かぬ審(さば)きの意思として語った。この預言は,前597年のバビロニアによる第1回捕囚に及び,神の世界史的規模における歴史支配と審判として明確に把握されたが,これは彼を迫害と危険と苦痛と孤独に陥れた。前586年第2回捕囚直前,審きから救いへの神の意思の変更を受けとめ(《エレミヤ書》32章),新しい契約(同31:31~33)へと結晶した。その後エジプト逃亡の一団によってエジプトへ連れ去られ,まもなく死んだとされる。
執筆者:左近 淑
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
前7世紀後半~前6世紀前半のユダ王国の預言者。富者や強者の不義を非難し,神罰であるカルデア(新バビロニア)の支配を甘受せよと説いた。ユダ王国滅亡後のバビロン捕囚は危うく免れたが,その後,同胞の要求に抗しきれず,エジプトに移住した。彼の預言を収録したのが旧約聖書の「エレミヤ書」である。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…旧約聖書中の一書。ギリシア語訳(《七十人訳聖書》)以来,《エレミヤ哀歌》と呼ばれ,《エレミヤ書》の後に置かれるようになったが,ヘブライ語聖書では,ただ《哀歌》と呼ばれ,旧約聖書の第3部に置かれている。《哀歌》がエレミヤと結びつけられたのは,《歴代志》下35章25節の記事によるものと思われる。…
…〈言葉の預言者〉において預言は神と民の間を審判の言葉,救済の言葉をもって引き裂き,また引き裂くことによって新たに結びつけようとしたものといえる。アモスに続くホセア,イザヤ,エレミヤなどの前8~前7世紀の預言者の活動の中心をわれわれはその点に見たい。王国の滅亡後に活動したエゼキエルや第2イザヤといわれる預言者(《イザヤ書》40~55)では預言の性格はかなり変わり,前者には祭司的要素が強く,後者には文筆家の面が強い。…
※「エレミヤ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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