改訂新版 世界大百科事典 「オレオピテクス」の意味・わかりやすい解説
オレオピテクス
Oreopithecus
イタリアのトスカナ地方とサルディニア島などから発見されている850万~800万年前の化石類人猿。オレオピテクス・バンボリO.bambolii一種を含む。最初の標本は1872年にP.ジェルベによってトスカナ地方のバンボリ山の褐炭層から発見された。属名はギリシア語の山(oros)に,種小名はバンボリ山に由来する。多くは変形が著しいものの,全身骨格を含む大量の化石が発見されている。しかしながら,系統的位置づけは長く混乱し,原猿,原始的真猿類,旧世界ザル,ヒト上科など様々な仮説がだされた。他の類人猿に比べ,大臼歯の特徴が独特であることが,系統的位置づけの混乱の原因となった。この点で,前期~中期中新世ケニアから知られているニャンザピテクスNyanzapithecusに類似しているが,これは収斂進化の好例である。チンパンジーよりも一回り小さく,大臼歯は非常に発達した剪断稜線を備え,葉食に特化していた。一方で,四肢骨の多くの特徴は懸垂運動に適応した現生類人猿に似ている。ドリオピテクスDryopithecusが地中海の島嶼に隔離され,他の哺乳類群と共に独特な特殊化を遂げたと考えられている。足の形態,三半規管の形態から,直立二足姿勢に適応していたという仮説も出されているが,異論が多い。800万年前,海水面が低下し,棲息地に大陸から大型の捕食者が侵入して絶滅した。
執筆者:中務 真人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報