オーストリアマルクス主義(読み)オーストリアマルクスしゅぎ(その他表記)Austro-marxismus

改訂新版 世界大百科事典 の解説

オーストリア・マルクス主義 (オーストリアマルクスしゅぎ)
Austro-marxismus

オーストリアマルクス主義は,1904年に創刊された科学的社会主義の理論政治誌《マルクス研究Marx-Studien》や07年に刊行されたオーストリア社会民主党の理論機関誌《闘争Der Kampf》に執筆したオーストリア社会民主主義者たちのなかから発展したマルクス主義的潮流である。この呼称は第1次世界大戦前,アメリカの社会主義者ボーディンLouis B.Boudinにより初めて使用され,その後急速に市民権をうることになった。

 オーストリア・マルクス主義の著名な代表者たちは,M.アードラーK.レンナーO.バウアーR.ヒルファディングフリードリヒアードラーFriedrich Adler(1879-1960)らで,彼らに共通する特色は,マルクス主義を完結した体系と見なすことを拒否する点にあった。彼らのなかで,M.アードラーは新カント主義的立場を,F.アードラーはマッハ主義的立場を代表していた。しかし,バウアーがのちにカント主義的立場を否定し,マッハ主義に接近し,また,レンナーが弁証法的唯物論の立場を否定したように,オーストリア・マルクス主義者たちは,哲学分野において共通の学説をもつ集団ではなかった。

 若きオーストリア・マルクス主義者たちは,オーストリア社会民主党の組織者であり統一者であるV.アードラー功績をたたえて,《マルクス研究》を創刊した。バウアーは,のちにオーストリア・マルクス主義を〈労働運動統一のイデオロギー〉と規定し,その源を1889年のハインフェルト社会民主党創立大会におけるV.アードラーの党の統一への努力に求めている。

 1918年の十一月革命のなかで,バウアーを中心とした党内左派は,第1次大戦を祖国防衛戦争と位置づけ,この帝国主義戦争を支持した党内右派の社会愛国主義的潮流を,全党の〈統一と団結〉の名のもとに免罪した。オーストリア・マルクス主義者は,十一月革命のなかで,プロレタリアートによる政治権力の奪取のための闘争を事実上放棄し,ブルジョアジーとの連合政権の道を選んだ。バウアーによって〈労働運動統一のイデオロギー〉と規定されたオーストリア・マルクス主義は,第1次大戦後の国際社会主義運動の分野では,第二半インターナショナルを創設し,第3の道を志向するが,この調停主義的な道は,やがて第二インターナショナルとの思想的・組織的合同によって挫折する。ボリシェビズムと改良主義の間をゆれ動いたオーストリア・マルクス主義の調停主義的・改良主義的姿勢は,第2次大戦前のファシズム台頭のなかで,労働者階級の統一,国際労働運動の統一を推進する真の力とはなりえなかった。
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百科事典マイペディア の解説

オーストリア・マルクス主義【オーストリアマルクスしゅぎ】

20世紀初頭に,M.アードラーバウアーヒルファディングなどを中心にオーストリアで形成されたマルクス主義の一派。民族の文化的自治の理論を展開した。第1次大戦後,共産主義と社会民主主義との対立時に両者の調停に努めた。→オーストリア社会民主党
→関連項目オーストリア・ハンガリー二重帝国

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

オーストリア・マルクス主義
おーすとりあまるくすしゅぎ
Austro-marxismus ドイツ語

20世紀初頭にオーストリアで形成されたマルクス主義の一潮流で、オーストリア社会民主党の主流となり、第二インターナショナルでも大きな影響を与えた。代表的理論家・指導者に、3人のアドラー(フリードリヒ、マックス、ビクトル)、ヒルファーディング、レンナー、バウアーらがいる。哲学的にはマルクス主義の新カント主義的再解釈を試み、革命的実践における道徳的理想の問題や、カントの認識論によるマルクス主義の基礎づけの問題などを提起した。独占資本主義によって生まれた新しい経済現象や、当時のオーストリアの複雑な民族問題に取り組み、独自の経済理論、文化論、民族国家論を展開し、また基幹産業の「社会化」という注目すべき思想を生み出した。従来、正統派マルクス主義によって日和見(ひよりみ)主義として批判されてきたが、最近は西欧マルクス主義などから再評価されつつある。

[池田光義]

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