カオス(その他表記)chaos

翻訳|chaos

デジタル大辞泉 「カオス」の意味・読み・例文・類語

カオス(〈ギリシャ〉chaos)

ギリシャ人の考えた、宇宙発生以前のすべてが混沌こんとんとしている状態。混沌無秩序。ケーオス。⇔コスモス
特定の規則や微分方程式に従うに生じる、不規則で乱雑な予測不可能な挙動。系自体は決定論的だが、系の変化が初期条件に極めて鋭敏に反応し、数値計算の誤差が時間の推移とともに増幅される非線形性をもつため、計算精度をいくら向上させても、事実上、正確に予測できない現象をさす。確率的な乱雑さとは異なるため、決定論的カオスともいう。

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精選版 日本国語大辞典 「カオス」の意味・読み・例文・類語

カオス

  1. 〘 名詞 〙 ( [ギリシア語] khaos )[ 異表記 ] ケオス ギリシア哲学で、宇宙発生以前の原始的な混沌とした状態。比喩的に、混沌として無秩序な状態もいう。⇔コスモス
    1. [初出の実例]「肝腎の教理其の物はイツマデ経っても私には混沌たるケオスであったから」(出典:読書放浪(1933)〈内田魯庵〉釈迦と基督とマルクス)

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改訂新版 世界大百科事典 「カオス」の意味・わかりやすい解説

カオス
chaos

数学的現象の名称。人口や生物の個体数の時間的変化を記述する数学のモデルの歴史を考えてみよう。T.R.マルサスの法則(1780)はut)を時刻tでの個体数として,微分方程式du/dtAuで記し,この解としてutの指数関数exp(At)となる。Aは正のとき増殖率と呼ばれ,時間がたてば人口または個体数は無限に増えつづける。つぎに出たモデルはベルハルストP.F.Verhulstが1838年に,アメリカの人口増加のモデルとして提案したもので,ε,hを正の定数とすればdu/dt=(ε-huuと書かれる。このモデルについては,正の初期値u(0)から出発した解は,時間tが無限にふえたときに一定値ε/hに近づくS字形の曲線となる。これは人口の飽和を記述している。メイR.M.Mayは1973年,ある種の昆虫の個体数の変化を記述するつぎのモデルの解はきわめて複雑な挙動をすることを数値実験で観察した。そのモデルはxnn世代目の個体数としたとき,xn+1axn(1-xn)と書きあらわされる。aの値は0から4まで変えうる定数とする。各aについて,xnを0と1の間の初期値x0から出発し,この式によって次々とxnを計算してゆくと,xnは常に0と1の間にあるが,nを無限に大にしてゆくときのxnの様子はaの値によってきわめて変化する。0<a≦1のとき,xnは0に近づく。1<a≦2ではxnは1-1/a単調増加で近づく。2<a≦3ではxnは1-1/a減衰振動をしながら近づく。さらに3<a≦1+\(\sqrt{6}\)では2周期の振動になる。1+\(\sqrt{6}\)<ap1では4周期,p1ap2では8周期と周期倍加をくりかえすが,[pn-1pn]という区間はどんどん小となりpn→3.567……に漸近する。さらに4に等しいかまたは4の近くではようすは完全にかわり,初期値x0のきわめて小さなずれがn→∞としたときのxnの行動に大きな影響を与える。a=4では,xnが1/2より小ならばAとおき,xn>1/2ならばBとおくと,二つのシンボルABをつかった無限列が得られるが,初期値を適当に動かすことにより,確率でいうベルヌーイの試行,つまり銅貨投げで表ならばA,裏ならばBとして得られる無限回の試行とまったく同じものが得られる。数学者リーT.Y.LiとヨークJ.A.Yorkeは1975年,一般的な一次元区間力学系について,上の繰返し代入xn+1fxn)(ここでfは連続)を考えるなら,もし数列xnが3周期をもてば,初期値をかえることによりどのような周期解ももちうること,および非可算の初期値に対し漸近的にも周期的でない解をもつことを証明し,このような数列のつくり方をカオスと呼んだ。カオスはランダムを含むより広い概念である。このように,一つの差分方程式(例えばメイの式)に含まれる一つのパラメーターを変化させることで,きわめて決定論的な運動の法則から,ランダムに見える運動の法則まで記述できることは数学の内容として重要である。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カオス」の意味・わかりやすい解説

カオス
Chaos

宇宙 (コスモス) が生成する以前の原古に存在したとされる混沌の状態をさすギリシア語。原意は,「大きく口を開けた」虚の空間を意味したと思われるが,その中にはすでに万物胚種が混り合っていたともいう。ヘシオドスの『神統紀神話では,ガイアより先に万物の最初に生じた男性の神格としてなかば擬人化され,暗闇 (→エレボス ) と夜 (→ニュクス ) とはその子であるとされている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カオス」の意味・わかりやすい解説

カオス
かおす
Chaos

ギリシア神話で、宇宙開闢(かいびゃく)のとき真っ先に生じた「原初の巨大な空隙(くうげき)」のこと。ヘシオドスの『神統記』によれば、これに続いてガイア(大地)とタルタロス(奈落(ならく)の底)とエロス(愛)が生じ、カオスはエレボス(闇(やみ))とニクス(夜)を生んだ。カオスは、あらゆる生(な)り出(い)ずるものの素(もと)と生成へのエネルギーを内に秘めた生成の場としての空隙のことであって、中国神話における混沌(こんとん)や、無秩序という意味での混沌と同一視するのは正確ではない。

[中務哲郎]

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知恵蔵 「カオス」の解説

カオス

ニュートン力学の決定論世界に現れる予測困難な非周期変動。この存在は19世紀、太陽系の天体運動など多体問題の探究でわかったが、1960年代以降、流体を扱う気象学、生物の増殖曲線を考える数理生態学などで研究が進んだ。複雑系科学の核。初期値に対して敏感で、方程式に入れる最初の値を少しずらすだけで系の未来像が大きく変わる。これは、蝶のはばたきさえも遠くの気象に影響しうるという意味で、バタフライ効果と呼ばれる。カオスの変数をグラフにすると、1つの点や1つの輪に収束せず行きつ戻りつする。この軌跡がストレンジ・アトラクター。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

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百科事典マイペディア 「カオス」の意味・わかりやすい解説

カオス

決定論的な方程式に従う系でも,一見,極めて不規則で,しかも予測困難な挙動を示すことがあり,この挙動をカオスという。数学的には,力学系の軌道ψ(x)(0≦x<∞)が周期的でない場合をさす。近代的な科学は,方程式の初期条件を与えれば系の時間的発展は完全に決まるというデカルトやニュートン以来の決定論的な世界観が基礎となっているが,カオスは近代科学が達成した自然観に変更を迫るものと見なされている。→複雑系

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岩石学辞典 「カオス」の解説

カオス

衝上断層に伴う巨大角礫岩[Noble : 1941].

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世界大百科事典(旧版)内のカオスの言及

【非線形力学】より

…ローレンツ方程式の非線形性はごく簡単なものであるが,それにもかかわらず可変パラメーターr(レーリー数に相当)を正の小さな値から増大させていくと,不動点(XYZ=0)が不安定となり,ついには非周期運動が現れることを見いだし,ローレンツはこれをもって乱流状態を説明するものとしたのである。のち,このような解はカオスchaosと呼ばれて非線形力学系に普遍的な現象であることがわかってきた。
[ポピュレーション・ダイナミクスpopulation dynamics]
 一種または数種の集団X,Y,……において,各集団を構成する個体の数が環境の作用や集団相互の交渉により変化する場合,そのような個体数の消長を調べる方程式は非線形力学方程式となり,化学反応論,集団生物学,社会学などに役だっている。…

【複雑系】より

…もちろん,分析的手法をまったく拒否しているのではなく,それを(暗黙のうちにでも)認めたうえで複雑系の研究は進められている。 例えば,カオスは,このような非線形力学系にありふれた現象である。カオスとは,あるシステムが〈ある時点での状態(初期状態)が決まればその後の状態が原理的にすべて決定される〉という決定論的法則に従っているにもかかわらず,非常に複雑で不規則かつ不安定な振舞いをして,遠い将来における状態が予測不可能な現象のことである。…

※「カオス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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