カキツバタ(読み)かきつばた

改訂新版 世界大百科事典 「カキツバタ」の意味・わかりやすい解説

カキツバタ (燕子花/杜若)
rabbit-ear iris
Iris laevigata Fisch.

湿地を好むアヤメ科多年草。〈いずれアヤメかカキツバタ〉といわれるようにアヤメにすこぶるよく似た花を,ほぼ同じ時期(5~6月)に咲かせる。しかし葉が幅広く1~3cmになり(アヤメは1cm以下),花の小花梗が子房よりも長い点で両種は区別される。《万葉集》にもカキツバタを詠んだ歌があり,古くから知られていた。花を集め布にすりつけて染めることもあったらしい。日本では,ノハナショウブから品種改良されたハナショウブが江戸時代から重要な園芸植物として,世界的に誇りうる品種分化が進んだのに対し,カキツバタやアヤメは,白花などの色変り斑入りなどの品種を除いては,見るべき園芸品種が育成されなかった。日本での品種数は約20,イギリスでは数品種ほどが記録されているだけである。しかし,水湿地で良好な生育をするアイリスで,粘土質の場所での栽植に適する種である。
アヤメ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カキツバタ」の意味・わかりやすい解説

カキツバタ
かきつばた / 杜若
燕子花
[学] Iris laevigata Fisch.

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)の多年草。根茎は堅く、枯れた葉の繊維に覆われる。葉は剣状、長さ30~70センチメートル、幅2~3センチメートル、先は少し垂れ、中央脈は不明、光沢はない。花茎は高さ50~70センチメートル、分枝せず、5~6月、先に2、3花を開く。花は青紫色、径約12センチメートル、外花被片(がいかひへん)の弦部は広倒卵形で垂れ、長さ5~7センチメートル、中央より下に中央脈に沿って白色または淡黄色の斑紋(はんもん)がある。内花被片は矛形で直立する。白色花品種はシロカキツバタという。愛知県、京都府、鳥取県には国指定天然記念物の大群落がある。湿地や水辺に群生し、日本全土のほか、朝鮮半島、中国東北部、シベリア東部に分布する。古来、花汁を用いて布を染めたので書き付け花とよばれ、転化してカキツバタとなったという。アヤメ属のなかではもっとも古くから栽培され、季語として親しまれ、家紋にも用いられている。江戸時代に園芸化が進み、多くの品種がつくりだされたが、現在は少ない。

[清水建美 2019年5月21日]


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百科事典マイペディア 「カキツバタ」の意味・わかりやすい解説

カキツバタ

北海道〜九州,東アジアの沼沢地に自生するアヤメ科の多年草。観賞用に庭の池辺にも植えられる。葉は剣状で中央脈がなく,花茎は分枝せず,高さ50〜70cm。花は濃紫色で5〜6月に開き,径約15cm,大きくたれ下がった外花被片は下部の中央が黄色い。園芸品種もある。名は,花の汁で衣を染めたための書付け花から転訛(てんか)したという。
→関連項目アイリス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カキツバタ」の意味・わかりやすい解説

カキツバタ
Iris laevigata

アヤメ科の多年草。本州の中部以北の水湿地に自生し,また観賞用に栽培される。高さ 50cm前後,葉は剣状でアヤメやノハナショウブに似ているが,中央の葉脈は隆起しない。花は初夏に咲き,濃紫色で,3枚の外花被片は反転して垂れ下がり,各片の中央に縦に黄白色の筋が入る。弁の基部にアヤメのような網目模様はない。内花被片は幅が狭くほぼ直立する。

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世界大百科事典(旧版)内のカキツバタの言及

【アヤメ】より

… アヤメ属Irisは北半球温帯に約200種が広く分布し,多くが観賞用に栽培される。 カキツバタI.laevigata Fischer(イラスト)はシベリア,中国東北部,朝鮮,日本の水辺に野生し,アヤメ属中最も水を好む。5月に青紫まれに白色の花を1茎に通常3花つける。…

※「カキツバタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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