日本大百科全書(ニッポニカ) 「カトリック教徒解放法」の意味・わかりやすい解説
カトリック教徒解放法
かとりっくきょうとかいほうほう
Catholic Emancipation Act
カトリック教徒をさまざまな制約から解放した、1829年のイギリスの法律。国教会制度をとったイギリスでは非国教徒がさまざまな形で抑圧されたが、とくにアイルランドのカトリックは厳しい支配を受けた。17世紀末~18世紀の一連のカトリック刑罰法は、公職からカトリック教徒を締め出し、土地購入や借地契約にまで制限を加えた。しかし18世紀後半の自由と平等を求めるアイルランド人の運動と、アメリカ独立とフランス革命の成功は、イギリスの譲歩を引き出し、1793年の救済法Catholic Relief Actで刑罰法のほとんどが撤廃されたが、その救済法も国会議員、大臣、裁判官、将官など国の重要な地位につくことをまだ許さなかった。このため完全な解放を求めるカトリックの運動が続いたが、この運動を大衆的に発展させたのがオコネルのカトリック協会であった。月1ペニーという安い会費で極貧層まで組織したこの運動は、1826年の総選挙で成功し、28年補欠選挙ではカトリックで被選挙権のないオコネルを当選させた。ここにおいてイギリス政府もついに決意し、同年、非国教徒を公職から排除した1673年の審査法を廃止し、翌1829年カトリック教徒解放法を成立させた。王、摂政、大法官と並んでアイルランド総督が除外されたが、ほとんどの公職がカトリック教徒にも認められることとなり、カトリック問題は基本的に解決した。しかしまだ十分の一税問題が残り、また選挙資格の引上げのため多くのカトリック農民が選挙権を失い、民族問題としてのアイルランド問題が解決したわけではなかった。
[堀越 智]
『堀越智著『アイルランド民族運動の歴史』(1979・三省堂)』▽『T・W・ムーディ、F・X・マーチン編著、堀越智監訳『アイルランドの風土と歴史』(1982・論創社)』