翻訳|canary
鳥綱スズメ目アトリ科の鳥。大西洋のカナリア諸島、マデイラ諸島、アゾレス諸島に自然分布する小鳥で、16世紀以降飼い鳥としてヨーロッパを中心に品種改良され、現在では広く世界中で飼われている。日本には天明(てんめい)年間(1781~1789)に長崎に舶来し、飼育が流行して現在に至っている。野生カナリアは、全長13センチメートル、下面は黄色、上面は雄が暗緑色、雌が灰褐色。雄はよくさえずる。小さな種子、熟した果実など植物質のものをおもに食べる。春から夏にかけて、地上からあまり高くない木の枝に巣をつくり、赤褐色の小さな斑点(はんてん)のある青緑色の卵を1回に3~5個産み、多いときは1シーズンに4回も雛(ひな)を育てる。繁殖期以外は大きな群れをつくる。ヨーロッパとアフリカの地中海沿岸には、別種であるが非常によく似てやや小形のセリンS. serinusが分布している。カナリアは15世紀の初めから、スペインのカスティーリャ王国の兵士によって、名の由来となったカナリア諸島などからヨーロッパに持ち込まれ、16世紀なかばを過ぎてから、急激に飼養が盛んになった。種子食であること、繁殖力が強いこと、群生すること、おとりを使って容易に捕獲できることなど家禽(かきん)化される条件がそろっていたうえに、同属のセリン、属は違うが同じアトリ科のズアオアトリ、マヒワ、ウソなどと容易に交雑するので、多様な品種が生まれた。
[竹下信雄]
品種改良の方向としては、鳴き声を楽しむもの、変わった姿を楽しむもの、美しい羽色を楽しむもの、の三つがある。ドイツで、原種そのままの外観と鳴き声で飼い鳥として固定されたものを並カナリアという。この国で産出されたローラーカナリア(鳴きカナリア)は、上面が暗緑色、黄色、またはそのまだらで、高低のない同じ声量の静かな声を長く続ける。オレンジローラーカナリアは全身オレンジ色で、ローラーの色変わりを固定して品種としたものである。鳴き声はローラーより劣るが、姿の美しさもあって広く愛好される。
アカカナリアは華やかな赤橙(せきとう)色をしており、目を楽しませる。この品種は、ベネズエラとトリニダード島に分布するアトリ科のショウジョウヒワCarduelis cucullatusとオレンジローラーカナリアとの人為的な交雑によって、1934年にアメリカで生じた。羽毛の先端まで赤い無覆輪(むふくりん)、先端部が白く全身が赤橙色と淡赤色の斑(はん)になる有覆輪、全身が白色で、ほんのりと紅をさした色合いが美しいデモフィック、全身赤いが目の周り、背、腹が淡赤色のアプリコットなど、遺伝子の組合せによって、いくつかのタイプができる。ヨークシャーカナリアは、ランカシャーカナリアとともにもっとも大きな品種で、全長20センチメートルに達する。羽色は黄色、濃黄色のものが多いが、緑色、赤色のものもある。イギリスのヨークシャー州で作出され、頭から尾の先までの上面の線がまっすぐに伸び、止まり木に対して45度の角度で止まるのが特徴である。イギリスのノーリッチ市で作出されたノーリッチカナリアも容姿を楽しむ品種で、ウソに似たスタイルで、胴が太く頭部も大きい。色はさまざまであるが、黄色が普通。巻き毛カナリアは胸と腹の羽が長く、かつ左右に巻き上がっている。これも羽色の変化が多く、黄、白、緑、赤がある。
細カナリアは、日本で作出されたものといってよく、全長約12センチメートルの小形の品種で、細く長くすらりとした体形と、止まるときの姿勢が、上体はほぼ垂直、長い尾が止まり木の下から前に突き出ることが特徴。色は黄、白、レモンなどである。このほか、品種ではないが、繁殖の過程で、変わった羽色のものがでることがあり、色カナリアとよばれる。淡い黄色のレモン色、胸と腹が褐色で背が黒っぽいビール色、灰色、カキ色などがある。
[竹下信雄]
前面だけが金網張りになっている木の箱、いわゆる庭箱で飼うのが普通であるが、鳴き声を楽しむ場合は、雄1羽だけを金網製の鑑賞籠(かご)に入れ、雌は見えないようにする。ヨークシャー、ランカシャー、ノーリッチ、巻き毛カナリアは大形なので、間口と奥行が40センチメートル、高さ45センチメートルの庭箱、ほかの種には、間口と奥行が35センチメートル、高さ45センチメートルの庭箱に一つがいが普通である。止まり木は、まっすぐなものを上下に2本取り付ける。飼料はヒエ、アワ、キビをおもにし、タンパク質、脂肪、ミネラルの多いエゴマ、ナタネ、カナリーシードを20~30%混ぜる。貝殻を焼いたボレイ粉と、ハクサイ、キャベツ、ハコベなどの青菜、それに水も常時与える。活発な鳥なので、餌(えさ)箱、水入れともに陶製の重いものを使わないと、ひっくり返したりする。
寄生ダニの1種ワクモがつくことが多く、吸血が激しいと衰弱する。庭箱を熱湯で洗うか、2%のクレゾールせっけん液を噴霧し、鳥の体には少量の除虫菊剤をかけてやる。庭箱が不潔になると発生しやすいので、週に1、2回ていねいに掃除するとよい。伝染力が強い病気にカナリア痘(とう)があり、悪性の場合は、嘴(くちばし)を開いて激しく呼吸し、やがて死亡する。治療法はないので、発見したらただちに隔離して他に伝染するのを防ぐしかない。予防には、クレゾールせっけん液による庭箱の消毒が有効である。そのほか、夏にはカに吸血されて弱ることが多いので、カを防ぐくふうが必要である。
繁殖は比較的容易で、普通3~7月に、2~4回の産卵をさせる。ナタネ、エゴマなどの栄養価の高い飼料を全体の40%ぐらいまで増やし、さらにパン粉に卵黄を混ぜたものを与える。巣はできあいの皿巣を与え、巣材としてカルカヤの根を束ねて金網に結び付けておく。雌の巣づくりが数日で終わると、産卵が始まる。毎朝1卵ずつ4~5個産み終えると、13~14日間の抱卵が始まる。抱卵が始まったら飼料は普段のものに戻す。雛が生まれたら、ふたたびパン粉とゆで卵を混ぜたものを養育飼料として加える。孵化(ふか)後約20日で巣立つが、それから約1か月たつと雛は独立するので、さらに数日おいて親鳥とは別の庭箱に移す。この間、親鳥は次の産卵と抱卵を始めている。
[竹下信雄]
スズメ目アトリ科の鳥。全長約14cm,カワラヒワとほぼ同大。姿のよさ,羽毛の美しさ,さえずりの複雑さなどが好まれ,世界的に愛好されている飼鳥の一つ。品種改良が行われ,多数の品種がある。原種は北アフリカ近くの大西洋上にあるカナリア,マデイラ,アゾレス諸島にのみ分布している。雌雄異色で,雄はマヒワに似た色である。背面は灰色だが頭部や胸は黄色,背やわきに黒い小斑が散在している。雌は褐色を帯びにぶい色。いろいろなタイプの樹林にすみ,とくに植林地に多く,農耕地にもでてくる。草本の種子を主食としているが,繁殖期には昆虫類を多くとる。一夫一妻で繁殖し,低木の茂みにわん形の巣をつくり,1腹3~5卵を産む。
16世紀にスペイン人がカナリア諸島からもち帰って飼育したのが,カナリア飼育の最初だといわれている。名もこれに由来する。たちまちスペインの上流社会に流行し,盛んに飼われるようになった。これにイタリア商人が目をつけて,カナリア飼育熱はヨーロッパ一円に広がった。ドイツで品種改良が進められ,鳴声のよいローラーカナリアroller canaryがつくられた。一方,イギリス,フランス,ベルギーでは姿の改良が行われ,イギリスのスタイルカナリア,オランダの巻毛カナリアなどさまざまな形態の品種がつくられた。さらにアメリカでは赤みの強いレッドカナリアがつくられた。日本には18世紀後半,江戸時代に長崎へ入ったといわれる。
巻毛カナリアは胸の羽毛が長く曲がっている。スタイルカナリアは細カナリアともいわれ,ほっそりしている。カラーカナリアといわれるものは緑色,かき色,橙色,ビール色,灰色,白色などいろいろの色に改良された品種である。
庭箱で飼うのがよく,食物としてはヒエ,アワ,キビを配合する。活発な鳥なので,補助飼料としてエゴマ,ナタネ,カナリアシードなども混ぜる。また青菜は欠かせない。巣引をするときには巣材を与えるとともに卵餌(たまごえ)を与える。
執筆者:中村 登流
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
…多くの動物の出産が春から初夏にかけて行われるが,このような場合,冬の終りごろから生殖腺が大きくなり,雌雄の性ホルモンの活性が高まって,これが個体の内的な衝動を高め相手を求める欲求行動を導く。例えば,日長が長くなり温度が高くなってくるとカナリアの雄の性的衝動が高まり,さかんにさえずるようになる。これは雄性ホルモン(アンドロゲン)の影響である。…
…産卵は求愛行動や交尾などとともに繁殖行動の一環をなす行動で,温度や日長の変化,交尾相手の信号などの外部刺激や体内のホルモン濃度などに強く影響されて起こる。たとえば,カナリアは日照時間が長くなると脳下垂体が刺激され,性腺刺激ホルモンを分泌する。これが卵巣を刺激し,やがてエストロゲンが分泌されて卵の形成と交尾行動が始まる。…
※「カナリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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