改訂新版 世界大百科事典 「カリテス」の意味・わかりやすい解説
カリテス
Charites
ギリシア神話の美と優雅の女神たち。単数形はカリスCharis。ラテン語ではグラティアエGratiae,英語ではグレーシズGracesと呼ばれる。もともと豊かな自然の恵みがもたらす喜びの象徴で,その数も名も一定しないが,普通はヘシオドスの《神統記》に従い,ゼウスを父とするアグライアAglaia(輝き),エウフロシュネEuphrosynē(喜び),タレイアThaleia(花の盛り)の3人姉妹をこれにあてる。愛と美の女神アフロディテにつき従ってその化粧の手助けをし,またオリュンポス神の宴の席で舞い歌う彼女たちは,単に肉体的な美と魅力を与えるにとどまらず,詩歌や芸術の分野でも同様の働きをする存在として崇拝された。しかし彼女たちを主役とする神話はない。美術では,通例,2人の女神が向かい合う間にもう1人が背を向けて立つ構図が採用され,ヘレニズム期には裸身で表現された。ポンペイの壁画,ボッティチェリの《春》など,古今に名高い作品が多い。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報