ムラサキ科の宿根草ムラサキの根による染料の名。紫は古代から東洋,西洋において高貴の色とされた。古代エジプトでは〈ティリアン紫〉として知られる動物性の貝紫を用い,中国,朝鮮,日本では紫根によった。その代表的な絹の染色には灰汁(あく)が媒染剤に用いられた。生絹をツバキの灰汁に浸して灰汁練りをし,布地の精練がすむと,灰汁中のアルミニウムが絹に吸着され紫根の温湯浸出液中の色素シコニンを染着する。灰汁練りに1ヵ月,深紫を得るのに1ヵ月を要した。《万葉集》巻十二に〈紫は灰指すものぞ〉と歌われるように,〈灰指〉は飛鳥時代の灰汁練りを示す染色の技術用語である。室町期以降,木綿の紫染めは豆汁(ごじる)をかけて染着の効果を高めた。
執筆者:新井 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
→ムラサキ
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報