黄八丈(読み)キハチジョウ

デジタル大辞泉 「黄八丈」の意味・読み・例文・類語

き‐はちじょう〔‐ハチヂヤウ〕【黄八丈】

黄色地に茶・とび色などで縞や格子柄を織り出した絹織物。初め八丈島で織られたのでこの名がある。

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精選版 日本国語大辞典 「黄八丈」の意味・読み・例文・類語

き‐はちじょう‥ハチヂャウ【黄八丈】

  1. 〘 名詞 〙 織物の一つ。黄色の地に、茶、とび色の縞柄(しまがら)のある、糸織りの絹織物。きはち。
    1. [初出の実例]「いやいや、上物は黄(キ)八丈(シャウ)の裙に、水車付たる女」(出典:浮世草子好色二代男(1684)五)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「黄八丈」の意味・わかりやすい解説

黄八丈
きはちじょう

東京都下、伊豆八丈島で織られる、黄色を主色とした、縞(しま)または格子柄の絹織物。島内で産する植物染料を用いるのが特徴である。

 シイ(椎)の樹皮による黒八丈など、八丈島の絹織物を総称して黄八丈とよぶことがある。八丈とは、織物の長さが8丈であったことからきているが、現在の着尺地と同じである。

 八丈絹の系統は、すでに『延喜主計式(えんぎしゅけいしき)』にみられ、中世には『新猿楽記(しんさるがくき)』に美濃(みの)八丈とか、『庭訓往来(ていきんおうらい)』には尾張(おわり)八丈とみえており、近世には、八丈島紬(つむぎ)として『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』に表れてくる。そして、江戸中期には、幕府への貢租品として上納されるに至った。

 原料は、この島でとれる蚕糸により紡ぎ糸がつくられ、染料は、黄八丈に八丈刈安(かりやす)、鳶(とび)色にはイヌグスタブノキの方言、マダミともいう)の皮、黒色には、シイの皮を使い、媒染にはサカキ・ツバキなどの灰汁(あく)、鉄媒染には、金気(かなけ)のある沼に浸(つ)ける方法がとられた。

 製織には、もと地機(じばた)が使われたが、いまはほとんどが高機(たかはた)によっている。この織物がもつ独特の雅味と光沢のある地合いが好まれ、着尺地、夜具地、座ぶとん地に使われたが、現在では、わずかに生産されるにすぎず、一部の人たちに着尺地として愛好されるにすぎなくなった。もと各地で黄八丈がつくられたが、ほとんどがとだえてしまい、秋田市の秋田八丈が残されているにすぎない。

 この黄八丈は、1515年(永正12)北条氏が全島を支配して以来、租税として上納されてきた。江戸時代になって大名や御殿女中に愛好され、のちには町人の間にもはやった。

 明治になってからは、下町の女性の象徴にもなった。そのため、八丈島のものは、伝統的技術を伝えるものとして貴重であり、現在、記録作成などの措置を講ずべき無形文化財に指定されており、これに黄八丈技術保存会があたっている。

[角山幸洋]

『秦秀雄著『茜叢書 第1編 黄八丈』(1931・郷土研究社)』『八丈実記刊行会編『八丈実記 第1巻』(1964・緑地社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「黄八丈」の意味・わかりやすい解説

黄八丈 (きはちじょう)

伊豆諸島の八丈島でつくられる黄,とび(鳶),黒,白を主体とした縞,格子柄の絹織物。平織と綾織がある。着尺,羽織地,夜具地などに用いられる。用いた色によって鳶八丈,黒八丈,白八丈などと呼び,黄八丈は総称としても用いられる。丹後ともいい,綾丹後,節丹後などがある。また,色や組織,素材の形などによって黄紬(つむぎ),白紬などがある。歴史は古く,室町時代にすでに黄紬の貢納の記録があり,江戸時代には租税の上納品とされて明治末まで続いた。上納は数十種の小裂(こぎれ)見本を貼った永鑑帳で柄決めされ,将軍家御用品として大奥や大名家などで愛用され,しだいに江戸町人や下町へと広がって粋人に好まれた。伊豆諸島は地理的に孤立しているため,クワや蚕種などの材料も自給しており,特に染料に特色がある。黄はカリヤス(刈安。コブナグサ)の煎汁とツバキの灰汁,茶はマダミ(イヌグス)の樹皮の煎汁とその灰汁を用い,黒はシイの樹皮の浸出液と,鉄分を含む泥田の媒染を行って染め上げる。他にうぐいす色,ねずみ色,栗皮色をカリヤス,シイ,泥で染める。染め上りはさびた光沢と渋味をもつ。天然色素であるが媒染が効き,色の落ちもなく,使うほどに冴える。明治中期までは地機で織られていたが,以降は高機になった。現在ではほとんど化学染料,機械織にかわり,かつてのおもかげを伝えるものは少ない。

 なお,この黄八丈のようにその土地産の染料を用い,同様の味をもつものに秋田市産の秋田八丈がある。日本海の砂浜に自生するハマナスを用いて出すとび色を主とし,黄色にはヤマツツジ,カリヤス,ヤマモモなどの植物染料が多用される。天保年間(1830-44)から続けられており,襲(かさね)などの下着に使われてきた。
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百科事典マイペディア 「黄八丈」の意味・わかりやすい解説

黄八丈【きはちじょう】

八丈島で作られる絹織物で八丈紬(つむぎ)のこと。八丈カリヤス(コブナグサ)で鮮黄色に染めた糸が主体なのでこの名がある。暗褐色の鳶(とび)八丈,黒色の黒八丈もある。平織または綾(あや)織で縞(しま)および格子縞を織ったものが多い。着物,羽織,夜具地などにする。色合いなどを模した秋田八丈や米沢八丈もある。
→関連項目黒八丈八丈[町]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「黄八丈」の意味・わかりやすい解説

黄八丈
きはちじょう

東京都八丈島原産の紬織 (つむぎおり) の一種で,黄色を主色とした縞または格子柄の先染絹平織着尺地。特徴は数十回も繰返される染色法にある。かつては島の植物による天然染料で染められ,黄は八丈カリヤス,茶はタブノキの樹皮,黒はシイの樹皮を用い,それぞれ灰分,鉄分を媒染剤とした。その後次第に塩基性染料に代った。主色の黄,茶,黒,白に2~3色の中間色を加え,独特の配色をなす。江戸時代以降,地方特産織物として著名になり,現在は民芸織物として珍重されている。他の地方で織られた類似品に米沢八丈,秋田八丈などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の黄八丈の言及

【伊豆諸島】より

…幕府は諸島の耕地が少なく,農業生産も台風などの影響で不安定であることから,年貢として大島,三宅島,新島,神津島から塩,御蔵島,利島,八丈島から絹紬,大島の一部から薪を徴収した。その生産は強制的であったが,名産品となった黄八丈(絹紬)を除いては生産が上がらず,元禄年間(1688‐1704)には大部分が代金納となり,各島は江戸向け特産物の商品生産に変わった。その主要なものは黄八丈のほかツバキ油,ツゲ材,テングサなどであり,1796年(寛政8)江戸鉄炮洲に設けられた島方会所が独占的に取り扱って商品化された。…

【草木染】より

…そのため各地方に発達した地方的な染織品には,土地特有の染料を用いたものがある。たとえば古くは加賀の梅染など,近世以降では八丈島の黄八丈に用いる椎の皮やまだみ(犬樟(いぬぐす))の樹皮,藎草(こぶなぐさ)(八丈刈安)など,また秋田八丈の玫瑰(はまなす)の根などである。沖縄ではテリハボクの近縁種の福木(ふくぎ)の樹皮から得られる強烈な黄が,紅型(びんがた)に光彩をそえる必須の染料とされる。…

【コブナグサ】より

…温帯から熱帯アジアに広く分布する。八丈刈安(はちじようかりやす)とも呼ばれるが,カリヤスとともに黄色染料とされ,とくに八丈島では本種の煎汁を用いてツバキの灰で発色させ,黄八丈の染色をするからである。中国では薬草として鎮咳剤,洗瘡に用いられる。…

※「黄八丈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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