植物より抽出される煎汁を用いて行われる染色。色彩には天然の色相による柔らかな暖みがあり,多色の色を雑多に用いてもたがいに色がうつりあい,調和を生み出すという特色がある。一方,堅牢度に欠け,褪色しやすく,特に直射日光や洗濯には弱い。織物の発生に並行して発達した染色,すなわち布帛(ふはく)を染め,文様を施すために用いられた染料は,かつては一部の顔料や動物染料を除けば大部分が植物染料であった。日本でも化学染料が普及する近代,特に明治15年前後まではもっぱら植物染料に依存してきた。
染色に供せられるおもな植物,および色素を含有する部分を挙げると,茜(アカネ),紫草(むらさき),鬱金(ウコン)等の根,渋木(楊梅(やまもも)),阿仙(カテキュー),黄蘖(キハダ),丹殻(たんがら)等の樹皮,藍(アイ),刈安(カリヤス)等の葉,蘇芳(スオウ)の樹幹,矢車附子(やしやぶし),梔子(クチナシ),橡(つるばみ)(クヌギ),檳榔(びんろう)の実,紅花(ベニバナ)の花,などがある。これらのうち黄蘖,梔子,鬱金などは抽出した染液でそのまま染まり,藍は空気中の酸素にふれて酸化することによって発色するが,大部分の植物染料は発色,定着させるために媒染剤が必要とされる。媒染剤の使用法や発色法には個々に秘伝があって一様ではないが,一般にミョウバンのようなアルミニウム塩系の媒染剤で明るい赤や黄,クロム系の媒染剤で暗紫色や褐色,鉄媒染で黒色を呈する。用いられる染料は赤色系に茜,紅花,蘇芳,紫系に紫草,蘇芳,黄色系に黄蘖,梔子,鬱金,刈安,渋木,丹殻,青に藍,褐色および黒に矢車附子,橡,阿仙,五倍子(ふし),檳榔など,そして緑色系には藍と黄色染料(刈安や渋木)がかけあわされる。また鬱金,蘇芳,阿仙,丹殻,檳榔などは主として東南アジアからの輸入染料であるが,他は日本の各地で自生あるいは栽培されてきた。阿波(徳島)の藍,近江(滋賀)の刈安,山形地方の紅花,岩手地方の紫草のように,ある特定の地域を主産地としてきたものもある。
草木染はその名のとおり,色素を含有するどのような植物も,工夫によって染料とすることができる。そのため各地方に発達した地方的な染織品には,土地特有の染料を用いたものがある。たとえば古くは加賀の梅染など,近世以降では八丈島の黄八丈に用いる椎の皮やまだみ(犬樟(いぬぐす))の樹皮,藎草(こぶなぐさ)(八丈刈安)など,また秋田八丈の玫瑰(はまなす)の根などである。沖縄ではテリハボクの近縁種の福木(ふくぎ)の樹皮から得られる強烈な黄が,紅型(びんがた)に光彩をそえる必須の染料とされる。
なお植物染料は染料としての働きとともに,かつては薬用の効能も非常に大切にされてきた。旅装に藍の脚絆や手甲をつけたり,赤児に鬱金染の産衣を着せる風習などは,藍や鬱金染のもつ防虫作用に発したものである。
植物染料は化学染料と異なり,染色にたいへん手間暇がかかる。昔から〈紅百回,茜百回〉というように,濃い堅牢な色を得るためには何回も重ねて浸染をくり返すことが必要である。そのため化学染料の普及以降,草木染はきわめて短期間のうちに衰微し,今日では植物染料の天然の色調に魅せられた一部の作家や,趣味的な手工芸品に用いられるにすぎない。
執筆者:小笠原 小枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新