カルナップ(読み)かるなっぷ(英語表記)Rudolf Carnap

デジタル大辞泉 「カルナップ」の意味・読み・例文・類語

カルナップ(Rudolf Carnap)

[1891~1970]ドイツ生まれの米国の哲学者ウィーン学団の主要メンバーだったが、ナチスから逃れて渡米。論理実証主義分析哲学に指導的役割を果たした。著「物理学の哲学的基礎」「言語の論理的統語論」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルナップ」の意味・わかりやすい解説

カルナップ
かるなっぷ
Rudolf Carnap
(1891―1970)

ドイツ出身で、アメリカに帰化した哲学者。ウィーン学団の一員であり、1931年プラハのドイツ大学助教授、1935年渡米し、シカゴ大学カリフォルニア大学教授を歴任する。現代論理学の成果を哲学に応用することに一生を捧(ささ)げた。若いとき、論理主義者フレーゲラッセルの論理学・哲学上の仕事から強く影響されたが、同時に、形式主義数学基礎論の考え方もよく理解していたように思われる。その結果、哲学上の問題の大部分は、メタ論理学の問題の変装したものにすぎないと論じ、論理実証主義が流行していた1930~1940年代は、とくにアングロ・サクソンの哲学界に多大の影響を与えた。その後、1950年代以降、いわゆる日常言語学派の勢いが盛んになってからは、過去の哲学者とみなされることも多くなった。しかしこの批判は、かならずしも妥当なものではない。カルナップは、明確に、かつ、わかりやすく本を書くという長所をもっていたために、難解な表現しかできない「怠け者の哲学者」ほどには深みがあるようにみえないが、その提唱のなかにはいまなお意義のある部分がある。

吉田夏彦 2018年6月19日]

『永井成男・内田種臣編、内井惣七他訳『カルナップ哲学論集』(1977・紀伊國屋書店)』『Paul Arthur SchilppThe Philosophy of Rudolf Carnap (1963, Open Court, La Salle, Illinois)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「カルナップ」の意味・わかりやすい解説

カルナップ
Rudolf Carnap
生没年:1891-1970

哲学者。論理実証主義創設者の一人。またアメリカにおける分析哲学の発展に指導的役割を演じた。ドイツに生まれ,最初は物理学を専攻した。後にフレーゲとB.A.W.ラッセルの影響の下に哲学に関心をもち,1926年ウィーン大学の私講師となり,シュリックらとともにウィーン学団を結成し,その中心人物となる。当時ベルリンにいたライヘンバハとともに雑誌《エルケントニス(認識)》を刊行し,論理実証主義の思想を世界に広めた。後にナチスを逃れて,35年アメリカに渡り,シカゴ大学,カリフォルニア大学で教え,その地に新しい哲学を植えつけた。その学風の影響の下にクワインらを起点とする現代アメリカ哲学が育った。彼の哲学思想の発展は大きく3段階に分けられる。第1段階は《世界の論理的構成》(1928)における過激な現象論的経験主義の時代であり,その立場から,多くの哲学的命題は擬似問題として退けられ,また,《言語の論理的シンタックス》(1934)において,哲学とは科学言語の論理的シンタックス(統語論)であるという立場が示された。第2段階として,《検証可能性と意味》(1936-37)において,その立場はいわゆる物理主義へと弱められ,また第3段階として,アメリカの哲学者との交流を通じて話題を広げ,意味論的諸概念の分析,物理学や帰納論理の基礎づけを試みた晩年がある。日本にはアメリカの哲学者を通じて第2次大戦後はじめて本格的に紹介されたが,まだ十分な評価がなされていない。近時,世界的に彼の哲学の再評価の試みが現れている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルナップ」の意味・わかりやすい解説

カルナップ
Carnap, Rudolf

[生]1891.5.18. ロンスドルフ
[没]1970.9.14. カリフォルニア,サンタモニカ
論理学者。論理実証主義あるいは論理経験主義の代表者。 1926年から 1931年にかけて,当時論理実証主義の牙城であったウィーン大学で哲学を教授。 1930年には『認識』誌 (1940まで続く) を主宰し,科学哲学論を推進。ナチスの台頭とともにアメリカへ亡命し,シカゴ大学 (1936~52) およびカリフォルニア大学 (1954~61) で教鞭をとる。彼は他の論理実証主義者たちと同様に,形而上学を無意味なものとして排斥し,哲学の仕事は言語の論理的シンタックスの分析にあるとした。後期には意味論の分野に向かい,記号とその表わすものとの関係の研究に精力を傾けた。主著には『世界の論理的構造』 Der logische Aufbau der Welt (1928) ,『言語の論理学的シンタックス』 Logische Syntax der Sprache (1934) ,さらに A.タルスキーや G.フレーゲの意味論を継承展開した『意味論入門』 Introduction to Semantics (1942) ,また物理学の哲学的基礎を究明した"Philosophical Foundations of Physics" (1966) など。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「カルナップ」の意味・わかりやすい解説

カルナップ

ドイツ生れの米国の哲学者。論理実証主義の創設者の一人。1926年ウィーン大学私講師となり,シュリックらとウィーン学団を結成,その指導者として活躍。1935年渡米し,シカゴ大学,カリフォルニア大学で教えた。著書《世界の論理的構成》(1928年),《言語の論理的シンタックス》(1934年),《検証可能性と意味》(1936年―1937年)。
→関連項目ウィーン学団分析哲学

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のカルナップの言及

【現象主義】より

…他方その現代的形態は〈物理的事物に関する命題は感覚与件sense‐dataに関する命題に分析可能である〉という主張に見られるごとく〈言語的還元〉の方向を目ざす。上の主張は〈物理的事物は感覚与件からの論理的構成物である〉と言い換えることができ,このテーゼを忠実に展開したのがカルナップの《世界の論理的構築》(1928)である。ほかにG.E.ムーア,B.A.W.ラッセル,エアーら分析哲学の流れに属する哲学者たちがこの〈言語的現象主義〉の立場を代表する。…

【分析哲学】より

…20年代の後半から30年代にかけて盛んとなった論理実証主義は《論考》時代のウィトゲンシュタインから大きな影響を受けたが,一方先鋭な実証主義,反形而上学,科学主義とくに物理学主義をもって知られる。しかし論理実証主義者,とくにその代表者カルナップは《論考》の思想を規約主義的に変形して理解し,哲学的活動を一種の言語分析として規定した。それは形而上学に対してはその言明の無意味性を主張し,特殊諸科学に対してはその言語の統語法を論ずる論理的統語論を構成することであった。…

※「カルナップ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android