イタリアのルネサンス期、ベネチア派の画家。ベネチアに生まれ、同地で没したと思われる。ジェンティーレ・ベッリーニの弟子であったらしく、師と同じくベネチア特有の大型カンバス(テレーロという)に独特の想像力をもって多くの宗教画を風俗画的に描いた。年記のある最初の作品が『ケルンへの到着』(1490)をはじめとする9面の『聖女ウルスラ伝』(ベネチア・アカデミア美術館)である。スクオーラ・ディ・サントルソラ(聖ウルスラ同信会)のために描かれたこの連作画には、ベネチアの町並みや風物が克明に生き生きと描写されている。ベネチアのスクオーラ(同信会)のために描いた同じような連作画として、スクオーラ・ディ・サン・ジョルジョ・デリ・スキアボーニの『聖ゲオルギウスの物語』など(1502~1507)、スクオーラ・デリ・アルバネージのための『聖母伝』(1504~1508)、スクオーラ・ディ・サント・ステーファノのための『聖ステパノ伝』(1511~1520)がある。多くの作品に署名と年記を残しており、画風の変遷をたどることが容易であるが、16世紀に入ってもカルパッチョはティツィアーノなどの新様式を取り入れることがなかった。
[篠塚二三男]
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…その結果,日常的ないし生活面に関する主題を蔑視する傾向があった。その反面,ベネチア派の画家たち,たとえばカルパッチョは《高級娼婦》(1490ころ)を描き,東方の人々の往来する,異国情緒にあふれた都市ベネチアの一風俗(クジャクやオウムの輸入)を伝えている。そうした中でカンピV.Campiなどのロンバルディアの地方画家たちは,果物売りなどの世俗的主題(とはいっても,こうした絵には〈豊饒〉の寓意もある)をのびやかに描いていた。…
…ジャンル的には,とくにベネチア派独自のものとして街景画(ベドゥータveduta)と肖像画をあげることができよう。ヤコポ・ベリーニ以来の人物より環境空間を重視する傾向は,一方ではジョバンニ・ベリーニ,ジョルジョーネ,初期のティツィアーノという抒情的な理想郷的風景表現の系譜となり,他方でジェンティーレ・ベリーニやカルパッチョから18世紀のカナレット,ベロットに至る都市空間を明晰な遠近法で再現する街景画の系譜となって,近代的風景画の中に流れ込んでいく(この中でグアルディは街景画を非現実的な詩的幻想に転じたことで異色の存在である)。一方,肖像画は,ジョバンニ・ベリーニやアントネロ・ダ・メッシナからロット,ティツィアーノ,ティントレットに至る伝統が,濃密な生動感と鋭敏な精神性をたたえた近代的肖像画の源泉として輝かしい光彩を放っている。…
※「カルパッチョ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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