日本大百科全書(ニッポニカ) 「カンパネッラ」の意味・わかりやすい解説
カンパネッラ
かんぱねっら
Tommaso Campanella
(1568―1639)
イタリア・ルネサンス期の代表的な哲学者。カラブリアのスティロに貧しい農家の子として生まれる。若くしてドミニコ会に入るが、とくにテレジオの自然主義、感覚論から感銘を受ける。16世紀末、南イタリアはスペインの支配下にあったが、彼はスペイン勢力の駆逐を企てて露見、ナポリの牢獄(ろうごく)で拷問にかけられ、正気を失ったふりをして死刑を免れる。以後27年間の獄中生活において宗教的関心を強める一方、『太陽の都』(1602年執筆、1623年刊行)を含め広範囲な著述活動を行う。1633年フランスに亡命、パリに没した。
彼の思想には正統と革新の二面が共存しており、二重人格あるいは仮面とみるなど、両者の関係について解釈はいろいろと分かれるが、あらゆる超自然的要素を取り除いて、宗教を純然たる自然に還元しようとした若いころから、同じ自然的要請のなかに、精神と超自然的なものとの連結点をみいだす成熟期へ、考え方の発展があったのだという解釈もある。確かに、たとえば認識の問題について、テレジオ流の感覚論から出発しながら、根本的な方法的懐疑を通じて、知識や確実性の基礎を自己意識のなかに求め、神にまで達するといったアウグスティヌス的伝統への深化がなされている。神、宇宙、人間、さらには倫理、政治などに関する哲学の全体にわたっても、テレジオを中心とした自然主義的な考え方と、プラトン、アウグスティヌス的伝統との一つの新しい総合をみることができるといえよう。
[大谷啓治]